政府は「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録が今月5日に決定するまで、可否を審査する世界遺産委員会の求めに応じ、歴史認識問題を理由に登録阻止へ動く韓国との落としどころを探り続けた。だが交渉は難航を極め、一時は決裂寸前の状態に陥った。舞台裏を検証した。 ▽危機感 6月30日、外務省の大臣室。「何だ、このペーパーは。だから韓国は信じられない」。岸田文雄外相は激怒し、韓国が世界遺産委で読み上げる予定の意見陳述案を放り投げた。日本側が登録対象施設での朝鮮半島出身者の戦時徴用を「forced labor」(強制労働)と認めたとの趣旨が書かれていた。 戦時徴用は国際法が禁じる強制労働に当たらないというのが、歴代政権の立場だ。韓国の陳述内容が独り歩きすれば、ありもしない国家犯罪の責任を国際社会から追及されかねない―。岸田氏が抱いたのは、こうした危機感だったとされる。 伏線があった。19日のソウルで