2012年9月、トマス・アクィナスの『神学大全』(創文社)日本語訳の最終巻が刊行された。1960年以来、じつに52年に及ぶ大事業が終わった。 最後まで携わった稲垣良典さん(九州大学名誉教授/84)は全45巻中20巻を担当した。毎朝起きてから朝食までの間に少しずつ進めてきたと言う。 中世西洋哲学の必読書とされる『神学大全』だが、じつは初心者向けで未完成。稲垣さんは、「あらゆる答えが詰まっていると思うのは間違い」だと指摘し、むしろ「人生の道案内」だと形容する。 「トマスの文はバッハの曲に似てリズムに乗りやすい。乗り出すと訳ははかどりました」。稲垣さんは、「努力した」とか「苦労した」という記憶はないと話す。 トマス・アクィナスは13世紀のドミニコ会士で神学者。「教会博士」の称号を与えられている聖人だ。 『神学大全』は名前の印象とは異なり、「神学部で勉強するような人のためではなく、修道会の要職に
- 第67回毎日出版文化賞 力作そろう トマス・アクィナス 神学大全 全45巻完結 稲垣良典他訳(創文社・3990〜7980円)=企画部門 世紀またいだ偉業 キリスト教神学最高の達成「神学大全」は今日も燦然と輝きを放つ。その翻訳が52年の歳月を経ていよいよ完結した。全45巻き39冊。高田三郎、稲垣良典ら最高の訳者をえてわが国の知的資産に新しい宝石が加わった。 中世の教会は何百年もかけて建造された。高くそびえるゴシックの尖塔は、日々たゆみない職人の努力とそれを支える協働の忍耐のたまものである。「神学大全」の訳業も、教会建築と同様、世紀をまたいだ偉業である。私が学生のころ、書店の書架に並ぶ番号は飛び飛びで、いつ完成するのかと見上げたものだ。企画に関わった人びとも多くは物故者となり、栄誉で報いるすべもない。出版という使命を深く理解した先人の覚悟にただ頭が下がる。 「神学大全」は特徴的な問答のやり
西洋中世の哲学者トマス・アクィナス(1225年頃~74年)の主著『神学大全』の邦訳(創文社)が、1960年の刊行開始から52年かけてようやく完結した。 全39冊(訳者の巻立てで45巻、合本含む)。 『神学大全』はキリスト教世界最大の古典の一つ。神、人間、キリストを論じた3部から成り、大著であるがゆえに大聖堂にもたとえられる。 邦訳は京大教授だった高田三郎さん(故人)を中心に始まったが、厳密な翻訳を貫いたことや、翻訳者が途中で死去したことなどで大幅に遅れ、結局、九大名誉教授の稲垣良典さん(84)=写真=が全体の約半分を担当して完結させた。翻訳者は15人に上った。 これだけの大著だが、稲垣さんは「神を敬い、神に奉仕し、神に近づいていくための道、つまり“神道”の本だ」と強調する。「人間は人生を歩む中で変化していくもので、最高の幸福は神を見ることであり、神に近づくには人間精神が神と親近性を帯びてい
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く