社会学者・岸政彦さんの著書『図書室』──三島賞候補となった小説「図書室」と自伝エッセイ「給水塔」が収録されている。なぜ小説で女性を書いたのか? 男性には内面がないのか? 「図書室」の話から次回作の構想まで、岸さんが縦横に語る。 マジョリティには「自己」がない? ──6月に発売された『図書室』は三島賞候補にもなり、発売即重版とかなりの話題作となっています。 岸:今回の作品は、女性一人称で書く、というところでだいぶ悩みました。 最初に「男でも女でもなくて、一人の人間が団地で暮らしていて、窓から見下ろすと雨が降っていて」というシーンが浮かんで、そこから始まったんですよ。で、そこから書く時、あくまでも僕個人の感覚なんですけど、男性一人称で書こうとすると、どうしても個人の内面みたいなものが、なぜか書けなくて。 「ビニール傘」の主人公には人格がないんですね。あれは「俺」って視点は定まっているんだけど、