飛び散る木くずに、銀色の吐息が混じる。 2月中旬の夜。室温2度に冷え込んだ宮城県東松島市の作業場で、木工作家の遠藤伸一さん(54)は本棚を制作していた。 手元に集中しようとしても、うまくいかない。心の中にいくつもの声が響いて邪魔する。 「奏(かな)ちゃん、冷たいんだ」「俺だ、俺が殺したんだ」「お父さん、大好きだよ」「あなた、どうして助けてくれなかったの……」 納品先は米国だ。納期まであと数週間しかない。 「待ってろよ。あっちの人がびっくりするような本棚、作ってやっからな」 電動のこぎりの切断音が、ざわめく心を少しだけ鎮めてくれる。でも、「自分だけが生き残った」という罪悪感が、ぬぐい去られることは決してない。 子どもたちに言った「父ちゃんがいるから、大丈夫」 2011年3月11日、改修を請け負っていた石巻市の水産会社からの帰途、トラックで走っていてもわかるほど地面が揺れた。 石巻市の自宅には