(1)『1Q84』 村上春樹の『1Q84』読了。感想を一言で言うなら、変わっていないという印象が強い。村上春樹の特徴をここで整理しておくと(前回のエントリー参照)、第一に、ひたすら状況に巻き込まれるキャラクターの相がある。つまりキャラクターの行動は、「起こるべくして起こる」という印象を読者に与えるほど欲望を欠落させ、終始状況にしたがっているように見えるのである。そしてこのキャラクターの相を規定する形でナレーションの相がある。キャラクターの欲望(目標)を決して言い当てずに、翻弄し続ける黙説法的なナレーションの相である。彼の作品はこの二相のカップリングで成り立っていると言っていい。 この見取り図は、かつて蓮實重彦が『羊をめぐる冒険』について指摘していた説話型とも一致する(『小説から遠く離れて』)。つまり、「「黒幕」めいた不可視の権力者」と、その依頼を受けて――「依頼と代行」――「受動性に徹した