住民票が必要になって、自宅近くにある区役所の出張所を訪ねた。窓口の担当は、右腕のない青年だった。私が身分証明書類を持ち合わせていなかったため、彼は住民票をめぐるトラブル(1)を簡潔に説明し、本人確認のために個人情報を尋ねる非礼を詫び、手際よく事務を処理してくれた。 出張所のフロアには20人ほどの職員が働いていたが、障害者は彼1人だった。書類が出来上がるのを待ちながら、私はふと疑問に思った。世の中にこれほど障害者に適した職場がありながら、なぜその場所を健常者(2)が独占しているのだろう? 私たちは好むと好まざるとにかかわらず、市場経済の中で生きていかざるを得ない。そこは、簡単に言えば、「如何にして効率的に利潤を拡大するか」という価値観で動く社会である。アダム・スミスは、一人ひとりが利己的に行動することで社会全体の富が増大する、と説いた。社会主義体制の崩壊と冷戦の終焉は、計画経済の破綻と自由な