昆虫に関わる人の世界は、とかく変人に事欠きません。その様子をひと言で表すならば「欲望の塊」。珍しい虫を見たい採りたい、そのためなら寝食を投げ打つという、一般には理解の埒外にある欲望の坩堝。世間の冷たい視線という選別を潜り抜けてきた猛者たちのワンダーランドなのです。 石を投げれば変わり者に当たる昆虫業界にあってなお「奇人」の称号を独り占めにしているのが、好蟻性昆虫研究者の小松貴さんです。 はじめてお会いしたのは数年前、昆虫の魅力を紹介するイベントにご登壇いただいたときのこと。黒ずくめの服でゆらりと会場にたたずみ、不安になるほど口数の少ない方というのが当時の第一印象でした。しかし講演の時間になるや、魔法使いのマントと帽子を身にまとって登場し、聴衆の度肝を抜きます。星のついたスティックでスライドを指し示し、生きものたちの不思議な世界について教えてくれる語り口は、驚くほど巧みなものでした。 幼少の