日本の近代建築に貢献した建築家A・レーモンド建築の東京女子大学(杉並区)の9棟のうち大正時代に造られた東寮・体育館の解体計画が卒業生たちに知らされたのは2006年のことだった。この本は東京女子大学OGたちが「世界的な文化遺産」を守ろうとして大学側と闘った記録である。OGで発起人の一人である作家の永井路子は理事長に会議や文書で何回も撤回を求めた。 冷静な永井の物言いは迫力がある。さまざまな文化財の保存運動に参加している永井は「ホンモノは『残さないでよかった』ことは一度もなく、『残してよかった』か『残せばよかった』しかない」の名言を残している。 しかし、大学側に押し切られ、保存の願いは叶わなかった。 百年近い歴史を持つ東京女子大学の、21世紀の歴史に大きな意味を持つ2棟の存続問題について『大日本史料』のように、個々の意見を交えず、できるかぎり多くの客観的史料を残したかったという。沈着冷静な筆致