なぜ音楽について語りたがるのか?──音楽の倫理学に向けて | 増田聡 Why Do You Want to Talk about Music ? : Toward Ethics of Music | Satoshi Masuda 誕生から約一世紀半にわたる音楽学の歴史は、テクスト中心主義からコンテクスト主義へのゆるやかな移行の歴史として描くことができる。人文学の一分科としての音楽学が確立されたのは一九世紀後期のドイツでのことであるが、そこでは国民国家イデオロギーを底流としつつ、当時世界に君臨していたドイツ芸術音楽を中心とするヨーロッパ音楽を主な対象に、優れた音楽作品「それ自体」の来歴を実証的に後づけ、その構造を「客観的」に構造分析する作業が学科の中核をなしていた。いわゆる歴史的音楽学=音楽史学と、音楽理論の二つが音楽研究の中心的なディシプリンであったわけだ。しかし一方で、「諸民族の音楽の比