戦中戦後の一時期を福井県坂井市三国町で過ごした詩人三好達治(1900~64年)を取り上げた映画「天上の花」が2月25日から、福井市の福井メトロ劇場で上映される。師と慕った詩人萩原朔太郎の妹との三国での愛憎劇。三好を演じた俳優東出昌大さんが福井新聞のインタビューに応じ「三好の純真無垢な愛のために感情がぶつかってしまう。一言で言い切れないのが三好であり、そうであるから人間って面白いと改めて感じた」と語る。 朔太郎の娘である葉子が1966年に発表した同名小説「天上の花-三好達治抄-」が原作のフィクション。三好は妻子と離縁してまで迎えた朔太郎の妹(小説、映画での名前は慶子)との暮らしのはずだったが、一途な愛と、その裏返しの憎しみが次第に三好の心をむしばんでいき、思いもよらぬ結末を迎える。 福井での上映を前にオンラインでの取材に応じた東出さんは、「フィクション上の三好達治」と断った上で「(16年4カ
昨年の4月に勤務先の宮城学院女子大学を退職し、大野市の実家に戻りました。 高校卒業以来、40年ぶりの故郷での生活です。中心街もシャッターを下ろしたお店が目立ちますが、袖看板を見上げると、入り口のアーチとスズランのような街燈(がいとう)が出迎えてくれた、「大野銀座」の往時が甦(よみがえ)ります。年月を隔てての帰郷は、目の前の風景の奥に幼少期の時間が見えるような気がします。 その昔、実家の二階南の窓からは、飯降山(通称おたけさん)と黒谷山(くろだにやま)(通称ぼうず山)が仲良く並んで見えました。これらの山はざっくりと天気を知る目安になりました。山襞(ひだ)の一つ一つがわかるほど、近々と迫って見えるような時は、もうすぐ雨が降るか、雨上がりです。よく晴れた日は中空に青く浮かんでいます。子ども心にも変容する山は面白いものでした。今は、ぼうず山が、屋根と屋根の間から菱形(ひしがた)に頭を覗(のぞ)かせ
岩波文庫のアンソロジー『東京百年物語 2 一九一〇〜一九四〇』に入っている伊藤整の短編小説『M百貨店』(1931年)を読んでいたら、前回このコラムで紹介した谷崎潤一郎の『細雪』にも登場したシューベルトの『セレナーデ』(小夜曲)と『野薔薇』が出てきた。二つの小説に引用された歌詞が、いろいろなことを考えさせてくれる。 『細雪』では陸軍士官が汽車の中でシューベルトの歌曲を歌い出し、偶然乗り合わせた三人の姉妹がそれにつられて声を合わせたのだった。載せられた歌詞のうち、『セレナーデ』(原詩:レルシュタープ)は「秘めやかに やみをぬう わが調べ…」という堀内敬三の訳に似るが、「秘めやかに」が「しめやかに」、「わが調べ」が「歌の調べ」になっている。谷崎が手を加えたのか、それとも記憶違いか? 『野薔薇』(原詩:ゲーテ)は近藤朔風訳の「わらべは見たり野中のばら…」。堀内訳、朔風訳はいずれも名訳の誉れ高く、今
クリップ記事やフォロー連載は、MyBoxでチェック! MyBoxでキーワード登録をすると、記事を自動クリップ。 あなただけのMyBoxが作れます。 【社告】ふくい新春文芸 福井新聞社は「2023年ふくい新春文芸」の作品を募集します。未発表作に限ります。 ◎短編小説 400字詰め原稿用紙20枚以内で1人1編。なるべく常用漢字を使う。別紙にタイトルと必要事項★=下記=を明記。入選、佳作に賞金を贈る。 【選者】増永迪男氏、佐々木正祐氏 ◎詩、短歌、俳句、川柳 俳句、川柳は1人2句以内、短歌は1首、詩は2編以内。原稿用紙を使い、詩にはタイトルを付け、1編35行以内。はがき応募不可。なるべく常用漢字を使う。原稿には必要事項★を明記。入選に賞金、佳作に図書券を贈る。詩部門のみ高校生以下対象の奨励賞もある。 【選者】 詩/川上明日夫氏、渡辺本爾氏 短歌/古谷尚子氏 俳句/小山柴門氏 川柳/久﨑田甫氏 ◎
先日7冊目の詩集『汀(みぎわ)にて-素描と省察』を出した(福井新聞8月31日付既報)。中学生以来、60年にもわたって詩作を持続してきたものの、未(いま)だに生地である若狭弁の詩を書いたためしがない。日頃の若狭弁が読者の目にさらされるのは、素裸になったようで恥ずかしいのだ。自意識過剰でまだまだ気取りが抜けきらないと言われても仕方がない。 ちなみに現代詩の世界で、現在もっとも優れた方言詩をものしているのは、金沢在住の徳沢愛子さんだろう。日常生活の生産点に立脚し、ユーモアをまじえ庶民の豊かな感性を生き生きと見事な加賀弁に託して、明快に現代人の実存をあぶりだす強烈な詩的リアリティーを創出した。やはり百万石の歴史はただものではない。 むろん、すぐれた方言詩の書き手は県内の詩人にもいないわけではない。生活感のあふれる越前弁の有力な使い手として、つぎの3人の作品を紹介しよう。まずは越前市出身の故・岡崎純
「神は何をしているのか」という喫緊の標題を掲げ、ロシアによる悪逆無道なウクライナ侵略に絡めて神の不在や沈黙、霊魂観、他界観を話の枕にして、福井県詩人懇話会の例会「詩のよもやま話」(4月16日)で、柳田国男の初期の著作である『遠野物語』における幽霊譚を二話取り上げた。 いずれも研究者や関心ある読者にとってはよく知られた民譚(みんたん)である。幽霊と言う他界からの来訪者をどう理解するのか、信仰の根幹に深くかかわる課題と素材を提供させていただいた。レジュメ用のテキストとして、1月末に岩波書店から刊行された柳田國男自序『原本遠野物語』を早速援用した。明治42(1909)年2月から東京・牛込加賀町の柳田邸で遠野出身の佐々木喜善の方言まじりの口承を、「一字一句をも加減せず感じたるままを書きたり」と筆書された草稿の生々しい原本である。 まずは一話目に取り上げたのは、話者の佐々木喜善の死んだ曽祖母が通夜の
福井県ゆかりの詩人三好達治(1900~64年)の生前最後の詩「春の落葉」の直筆原稿が8月8日、福井県ふるさと文学館が開設した三好の生誕120年記念コーナーで全国初公開された。三好の推敲の跡が残る草稿1枚と、編集者とやりとりした2枚の計3枚の原稿用紙。同館職員が昨年、東京に住む親族宅で発見し、今年3月に同館が入手した。 三好は大阪府生まれ。東京帝大卒業後、30年に処女詩集「測量船」を発刊。44年に現在の福井県坂井市三国町に疎開し、5年間を過ごした。福井県民歌や三国、大野高校の校歌も手掛けた昭和の代表的詩人。 「春の落葉」は、三好が心筋梗塞で亡くなる5日前の64年3月31日に書き上げた最後の詩で、同年6月号の「小説新潮」に掲載された。同館職員が昨年9月、資料調査で親族宅を訪れた際に発見。貴重な絶筆と分かった。3枚の原稿用紙には、赤や青の文字で編集者や三好の直しが入っている。 同館の岩田陽子学芸
障害のある人がつづった詩に曲を付けて披露する全国規模の音楽祭「わたぼうし音楽祭」に、福井県立盲学校保健理療科3年の山本弘樹さん(50)=福井市=の詩が採用され、公募の曲も付けられた。「曲を聴いた視覚障害者が、社会へ踏み出す気持ちを持ってくれたら」と8月2日のインターネット配信を心待ちにしている。 わたぼうし音楽祭は、社会福祉や文化活動に取り組む奈良市のボランティア団体「奈良たんぽぽの会」が毎年夏、奈良県で開いている。45回目となる今年は、8月2日に祭典を開く予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止され、同日にインターネットで曲を公開することにした。 山本さんの詩「あなたの心にそっと感謝して」は、盲学校でのマッサージの実習風景が題材。「表情は見えないけれど」、施術の中で確かに感じられる相手のやさしさを描き、「社会復帰に夢のせて 出来ると信じて 私はあきらめない」と強い思いも込めた。「働く
記事一覧 旧丸岡町「詩の甲子園」廃止 【2006年8月17日】 (2016年8月17日午前0時00分) 中野重治の遺言理由に 「詩の甲子園」の別名で知られる旧丸岡町(現坂井市)が十五年間続けてきた中野重治記念文学奨励賞「全国高校生詩のコンクール」が、重治の遺言を理由に、本年度から取りやめになることが、十七日分かった。実施主体の丸岡町文化振興事業団によると、既に重治の遺族や選考委員ら関係者は、廃止を了承済みという。 同奨励賞は、若い詩人の育成に努めた重治の思いを継ごうと、同町の文化団体「丸岡五徳会」が中心となり、没後十周年の一九八九年に創設。当初は県内対象だったが、九一年から町が中心となり全国規模に。これを第一回コンクールとし、途中九六年に一度だけ中止されたが、これまで十四回実施。全国の高校生から寄せられた詩は約六万五千編にも上る。 選考委員も本県を代表する詩人、故広部英一氏や定道明氏
記事一覧 中野重治しのび「くちなし忌」 坂井市、ホオズキの実ささげる (2014年8月23日午後5時25分) 中野の写真にホオズキの実をささげる参列者=23日、福井県坂井市丸岡町の中野重治生家跡 福井県坂井市丸岡町出身のプロレタリア作家・詩人中野重治(1902〜79)の遺徳をしのぶ「くちなし忌」が23日、同町一本田の生家跡で営まれた。献花や詩の朗読が行われ、故人やその作品に思いをはせた。 命日の24日に合わせ、毎年8月に行われている。ことしで35回目。 県内外から約70人が出席した。中野の肉声による「千早町三十番地」の詩の朗読がテープで流された後、中野の写真と花が飾られた井筒に1人ずつホオズキの実をささげた。 中野の長女?目卯女(えのめうめ)さん(75)=東京=が「ことしよりは来年というように日々よく考え、また皆さんに会えることを願っています」とあいさつ。同町のフルート奏者大石さち子
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く