最近、高齢者の事故が全国各地で取り上げられ、その背景や対策について各方面からさまざまな領域の専門家の提言やコメントが新聞や報道、雑誌などマスコミにおいて見受けられるようになっている。筆者は、森林率84%という全国一の中山間地域を抱える高知県の地方大学病院で勤務するなか、ずいぶん以前から高齢者、特に認知症の人の自動車運転とその対策について、ジレンマを抱えながら取り組んできたつもりでいる。そこで老年精神医学を専門とする立場から、若干の私見を交えながらこの問題の課題について述べてみたい。 そもそも私が高齢者、特に認知症の人の運転問題に関わるようになったきっかけは、平成15(2009)年に国内で初めて立ち上がった認知症高齢者の運転問題と権利擁護に関する研究班に参加させていただき、班長である池田学先生(愛媛大学助教授、現大阪大学教授)や、荒井由美子先生(国立長寿医療研究センター)と出会ったことだった