私が現場にいた時、一人の署長が退職した。誠実で責任感が強く、本当に人徳豊かな人物であっただけに、突然の退職は惜しまれるところがあった。 いよいよ任地を去る日に、見送りに行くべく単車の準備をしていると苗木が送られてきた。時間が差し迫っていたが、仕方がないので山元へ行き検収し、仮植の指示をした後、駅へと単車を飛ばした。 やっとの思いで駅にすべり込むと、既に向こうの上り線のホームから大勢の人たちが出口に向かっている。汽車は発車した後であった。わずかの違いで見送れずしょげきっていると、向こうのホームからTさんがきょろきょろしながら出てきた。 「やあ、一寸の違いで遅れてしまって」 バツが悪そうに話す私を見て、彼は 「いや、僕もこの汽車だと聞いて見送りに来たが、署長は乗らなかったよ。これから署に電話して、時刻を確かめてみるところだ」 彼はそういって駅前の電話ボックスに入った。 「次の汽車に変更になった