※『羽根と根』4号初出評論を元に、誤字脱字等を訂正した 1 短歌に興味を持って間もない人と話していると、おすすめの短歌入門書をよく聞かれる。また大型だけれどもそれほど短歌に力を入れていない書店の短歌コーナーに行くと、そのスペースの多くは入門書に占められている。 短歌の世界に足を踏み入れようとしている人の多くが入門書を求めるのは、短歌という馴染みのなく得体の知れないものを作るには、そのための特殊なスキルが必要だと考えるからだろう。そのような場合想定されている「入門書」は、ほとんどの場合短歌の作り方のいわゆるハウツー本だし、実際世の短歌入門書の多くはそのようなものだ。 三上春海と鈴木ちはねのユニットである稀風社が発行した『誰にもわからない短歌入門』は、そういった一般的な入門書とはだいぶ趣が異なる本だ。そこに載っているのは、三八首の短歌(ではないものもいくつか存在する)に対する三上・鈴木の往復形