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10月4 若松良樹『肥満について考える』(信山社新書(法と哲学新書)) 8点 カテゴリ:社会8点 法律関係の出版社として知られている信山社が出している新書ですが、本書はその中でも「法と哲学新書」というシリーズの1冊になっています(最後に井上達夫による「〈法と哲学〉新書創刊に寄せて」という文章も載っている)。 副題は「少し変わった法哲学入門」ですが、ちょっとでもこの分野をかじったことのある人であれば「パターナリズムを扱っているのかな?」と想像がつくでしょう。 で、もちろんパターナリズムの話もしているのですが、それにとどまらず、政策を考えるうえでのポイントを示すような形で議論を進めています。 経済学の知見をとり上げながらも、「上から目線」の問題や「本人の受け取り方」など経済学があまり顧みないポイントを押さえながら議論を進めているところが本書の大きな特徴です。そして、そうした議論を通じて法哲学的
9月23 首藤若菜『なぜ賃金は上がらないのか』(講談社現代新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 『物流危機は終わらない』(岩波新書)、『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩選書)などで、日本の雇用問題をとり上げてきた著者がタイトルにある「なぜ(日本の)賃金は上がらないのか?」という問題に取り組んだ本。 (『物流危機は終わらない』と『雇用か賃金か 日本の選択』については「Merkmal」というネット媒体で紹介したことがあり、『雇用か賃金か 日本の選択』はブログでも紹介しているので、最後にリンクをあげておきます。) 『物流危機は終わらない』がトラック運転手を中心とする流通業界、『雇用か賃金か 日本の選択』がコロナ禍における航空業界や百貨店業界など、特定の業界での働き方の問題や、賃金、雇用調整の問題などをとり上げていたのに対して、本書は物価が動くようになって以降の実質賃金の低迷について、よりマクロ
9月13 白石忠志『法律の読み方がわかる本』(ちくま新書) 8点 カテゴリ:社会 法律関係の本については疎いので、ひょっとしたら単行本ではこのような本があるのかもしれませんが、新書では初めて見るユニークな本で面白いですね。 法律は日本語で書かれており、「読めばわかる」ように思えます。実際、憲法は古めかしい語句の解説などがあれば、その条文の文意はとれるでしょう(じゃあ、それがどんな形で適用されるかとなると別問題でしょうが)。 一方、個別の法律を見ると、「一読してもよくわからない」、「ある程度はわかるけど、こんなに持って回った言い回しをする必要があるのか?」といったことがあると思います。 これは法律が日本語で書かれていながら、自然言語で書かれているとはいい難く、一定のコード(規則)に従って書かれているからです。 本書は、そんな法律のコードを解説しつつ、実際に法律や判決をどのように読めばよいの
8月18 小野容照『親日派』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 「親日」という言葉は、もちろん日本では悪い言葉ではないですが、お隣の韓国では「売国奴」という意味に近い言葉になります。 これは韓国が日本によって植民地とされた歴史があるからなのですが、日本から見てわかりにくいのは、この問題が21世紀になってなおくすぶり続けており、さらに「親日派」の問題に熱心だと思われていた李在明が大統領になっても日韓関係があまり悪化していない点です。 本書はそうした疑問を鮮やかに解きほぐしてくれます。 「親日派」とは、もとは日本の植民地支配に協力した人物を指す言葉でしたが、李承晩や朴正熙といった権威主義的な大統領が、「親日派」をそれほど問題視せずに体制内に取り込んだことが、「親日派」=「反民主主義」「権威主義態勢の擁護者」といった図式を生み出すことになったのです。 さらに本書を読むと、植民地時代の「
8月16 似鳥雄一『税と権力』(早稲田新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 タイトルだけだとどんな本かわかりませんが、副題の「中世人はどうして税を払うのか」を見るとぐっと興味が湧くかもしれません。 権力の分散化が進む中世において、荘園領主だけは京都に集中しており、そんな領主がどのようにして税を集めるのかというのはなかなか興味深いもので、百姓の生活の「安堵」、神仏の加護の利用、そして現地の武力(武士)との妥協など、さまざまな要素の上に成り立っています。 日本史好きだけにとどまらず、幅広い読者が面白さを感じられる本だと思います。 目次は以下の通りはじめに―税の論理は時代を超える 第一章 荘園とは何か 第二章 課税する論理、納税する論理 第三章 中世人の生存競争―税をめぐる現場のトラブル 第四章 中世社会の変質と税―南北朝の動乱から室町の平和へ 第五章 終わる荘園制―税の論理のゆくえ おわりに
8月7 光永悠彦『テストと学力』(岩波新書) 7点 カテゴリ:社会7点 定期試験でも入試でも資格試験でも、現代社会はテストと切っては切り離せないわけですが、そんなテストについて分析した本です。 かなり専門的な議論もなされており、前半に関しては実感を持って理解しにくい部分もあるかと思いますが、第3章、第4章になると実際の社会問題とリンクし始め、実感を持って理解できるようになってくるのではないかと思います。 「自ら考える力」「生きる力」「非認知能力」など、従来の「学力」に代わってさまざまな「力(能力)」が取り沙汰されていますが、それらは実際にどんなもので、本当に測定できるのか? といったことを本書は問い直しています。 教育を語る前に是非目を通しておきたい1冊ですね。 目次は以下の通り はじめに――「テストだらけ」の世の中第1章 人間は測る動物である第2章 テストの舞台裏第3章 「百点満点」と
6月27 遠藤貢『アフリカ』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 副題は「「経済大陸」の行動原理と地政学」、長年政治学の立場からアフリカについて研究してきた著者による現在のアフリカを俯瞰した本になります。 もちろん、アフリカは広く、アフリカ大陸にはアメリカ、中国、ヨーロッパ主要国、日本がすっぽりと入るくらいで(はじめにii図表1参照)、そのすべてを新書で論じることは不可能です。 そこで本書はサブサハラ・アフリカを中心にアフリカの経済的な可能性と課題を指摘するとともに、「外向」と呼ばれるアフリカ政治の特徴やサヘル地域の動揺について論じ、著者の専門とする「アフリカの角」の情勢、「優等生」と呼ばれたボツワナの状況、そして日本とアフリカの関わりについて紹介しています。 やや詰め込んでいる感じがする部分もありますが、アフリカ政治の特徴を論じた部分などは非常に興味深く、アフリカ政治への理解が
5月23 武井彩佳『ホロコースト後の機能不全』(角川新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 タイトルからは内容がやや見えにくいかもしれませんが、これぞまさしく現在進行中の問題に対して鋭く深く斬り込んだ本です。 帯には「なぜドイツはイスラエルを批判できないのか」とあり、ドイツのスタンスを批判するような本に見えますが、同時にこの本はイスラエルという国家の特殊性や、日本の過去との向き合い方にも目を配っており、非常に大きなスケールでホロコーストという絶対的な惨禍がもたらした歴史や理念のねじれを紐解いています。 鶴見太郎『シオニズム』(岩波新書)も現在の惨状を歴史から読み解こうとするアクチュアルな試みでしたが、本書は歴史だけでなく、さらに国際法や正義の理念から「イスラエルという問題」を読み解こうとしています。 目次は以下の通り。序 章 世界の機能不全はどのようにして起こったか 第一章 国籍──国民の
5月12 小泉悠『現代戦争論』(ちくま新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 「現代戦争論」とは大上段なタイトルですが、副題は「ロシア・ウクライナから考える世界の行方」で、同じちくま新書から刊行された『ウクライナ戦争』の続編にあたる内容になります。 「あとがき」によると、当初は「ロシアとは何なのか?」というテーマを打診されたそうですが、それは筆者の手に余るということで、現在進行中の戦争について「どれだけの人が死んだのか?」「なぜ終わらないのか?」「「いかにして軍事国家となったのか?」「この国はどこへ向かうのか?」「日本はいかにロシアと向き合うべきか?」という5つの問いを立て論じるという形の構成に落ち着きました(「この国」とは著者の専門であるロシア)。 これによって論じられることは当然ながら限定されましたが、著者ならではの分析によって現在進行中の戦争の実態がわかりますし、また、その分析を通じ
4月25 渡辺努『インフレの時代』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 『物価とは何か』(講談社選書メチエ)、『世界インフレの謎』(講談社現代新書)で、物価の面から日本経済に対する鋭い分析を披露した著者の新著。 本書は時評を中心に構成されており、中には外してしまった予想もあるのですが、それを含めて著者の経済の見方、マクロ経済予想の難しさなどがわかる構成になっています。 インフレについては、「よくないこと」という見方が一般的だと思いますが、著者はインフレを日本経済が正常化するために必要なことだと考えており、本書についてはそのあたりの啓蒙的な意義も大きいのではないかと思います。 目次は以下の通り(時評的なトピックが中心の本ですので、細かい目次も載せておきます)。 序 章 新たな時代の始まり第1章 賃金・物価・金利の正常化1 本章の論点2 慢性デフレとは何だったのか3 賃金・物価・金利
3月13 黒田賢治『イラン現代史』(中公新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 去年の11月発売で、「やはり読んでおくか」と思って2月の下旬に読んだ本、まさかここまでタイムリーな読書になるとは思いませんでした。 本書では最後にイランのペゼシュキヤーン(ペゼシュキアン)大統領が第2次トランプ政権をいかに向き合うか、高齢になり死亡説もたびたび流れているハーメネイー(ハメネイ)師の後継者についても検討してるわけですが、まさかアメリカとイスラエルの大規模攻撃でハーメネイー師が殺害されるとは思っていませんでした。 本書は1979年のイラン・イスラーム革命以降のイランの歴史を追ったものですが、本書を読むと、近年のイランの歴史や政治体制だけではなく、体制の中心が宗教指導者から革命防衛隊へと移ってきた様子なども見えてきます。 その点、アフガニスタンのタリバーン政権などに比べれば柔軟性はありそうで、組織的抵
3月1 鶴見太郎『シオニズム』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 著者は昨年1月刊行の『ユダヤ人の歴史』(中公新書)で話題をさらった人物で、本書は昨年の11月刊行。「さすがに二番煎じになってしまうのでは?」と思いましたが、そんなことはありませんでした。 『ユダヤ人の歴史』と同じく、ロシア・東欧からの視点を重視しながら、シオニズムがいかなる思想であり、現在のイスラエルという国家にどのようにつながっているかを描き出しています。 『ユダヤ人の歴史』の歴史に比べると扱っている時代は狭いですが、それによって「なぜイスラエルは現在のようなパレスチナ政策を進めるのか?」という問題に鋭く迫る内容となっています。こちらも読み応え十分の本ですね。 目次は以下の通り。 まえがき 最重要カタカナ語一一選(人物/ユダヤ・イスラエル関連用語)序 章第1章 帝国への適応――国民国家以前のシオニズム第2章 東と
2月15 中井遼『ナショナリズムとは何か』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 著者は『欧州の排外主義とナショナリズム』(新泉社)でサントリー学芸賞を受賞した気鋭の政治学者で、2024年には『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)という非常に面白い新書を出しています。 そのため本書への期待も高かったのですが、ただ、読む前には「同じ新書ということもあって『ナショナリズムと政治意識』と内容が被っているのではないか?」という心配も少しありました。 しかし、その心配は杞憂でした。『ナショナリズムと政治意識』が「ナショナリズム」や「右と左」といった概念を国際比較から揺さぶるような内容だったのに対して、本書はナショナリズムについて、それがどのようなもので、どのような場合に高まり、それがどんな結果をもたらすのかということが分析されています。 ナショナリズムの国ごとの表出の仕方の違いなどは『ナシ
1月23 庄司克宏『EU 統治の論理と思想』(岩波新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 巨大市場としてだけではなく、国際政治における超国家的な主体としても存在感を発揮しているEU。そのEUの仕組みを解説したのが本書です。 「EUとは何か?」という問いに対しては、歴史的な発展を記述していくのがありがちなアプローチですが、本書はあくまでも仕組みを解説することを主眼に据えており、その分、やや難解になっています。 ただ、複雑さの中からEUの理念や、各国の交渉や妥協の歴史も見えてくるところが本書の面白いところでもあります。EUの「規制パワー」について知りたい人などにもお薦めです。 なお、本書は2007年に出版された『欧州連合 統治の論理とゆくえ』の改訂版ということになりますが。その後の出来事や問題も押さえられており、古さを感じる部分はありません。 目次は以下の通り。はじめに第Ⅰ部 EUの実像――超
1月16 濱口桂一郎『管理職の戦後史』(朝日新書) 7点 カテゴリ:社会7点 「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」などの用語を普及させ、日本の雇用システムについてその特徴を明らかにしてきた著者が日本の管理職の問題に迫った本。 以前の著者の本でも書かれていたことですが、日本だと中途採用の面接で来た中高年が「部長ならできます」と言えばそれは笑い話として消費されてしまいますが、欧米では当たり前の受け答えになります。「管理職」という職務がしっかりと確立しており、ビジネススクールでマネジメントについて学んできた人が就くポジションだからです。 本書は、そんな日本の管理職の特殊性を戦後の歴史を紐解きながら探り、アメリカの影響を受けた労働法と実際の日本の管理職のズレと、そこから生まれるさまざまな問題を論じています。 著者は複数のレーベルから新書を出していますが、同じ朝日新書から出た『賃金とは何か』と同
1月5 遠藤正敬『戸籍の日本史』(集英社インターナショナル新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 「無戸籍児」が一時期大きな問題となったように、戸籍とは日本人ならば当然持っている(入っている)もので当たり前のものですが、「どんな機能を果たしているのか?」、「なぜ必要なのか?」という言われるとよくわからないかもしれません。 本籍を皇居の「東京都千代田区千代田一番」にする人が多いように、本籍などは今や何の意味もないように思えますが、戸籍という制度は続いているわけです。 本書はそんな戸籍について、その歴史を振り返りつつ、戸籍を通して「日本人とは何なのか?」とった問題にも迫っています。 少しネタを詰めすぎている感もありますが、読み応えのある1冊となっています。 目次は以下の通り。 一章 「日本人」としての証明書 二章 「古代の制度」がなぜ復活したのか 三章 明治国家が創り出した「家制度」 四章 戸
12月27 2025年の新書 カテゴリ:その他 今年は4月から仕事が忙しくなってしまって、ここまでこのブログに感想をあげているのが42冊(実はあと2冊読み終わってます)。例年50冊前後なのでやや減ってしまいました。 本当はもっと紹介を簡単にしていかなければならないんでしょうが、長年のやり方はなかなか変えられないものですね。 もっとも紹介文を短くしようとしても出来なかったのは、それだけ内容の詰まった新書が多かったからで、このブログは将来の自分のためのメモという性格も強いのですが、それだけ書き留めておきたいことが多かったからでもあります。 ジャンルでは歴史もので力作が次々と刊行され、レーベルでは中公新書が強かったと思います。 新書全体だと、中公新書が秋に価格を上げてきたことで新書の価格帯は1000円以内の時代から1200円前後くらいの時代に大きく変わってきたと思います。 比較的早くから価格を上
12月26 池本大輔『サッチャー』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 イギリス初の女性首相であり、「鉄の女」として国際政治の舞台でも大きなインパクトを残したサッチャー。今年、2025年はサッチャー生誕100年にあたり、本書もそれに合わせて刊行されたのでしょうが、ちょうど日本でも初の女性首相の高市首相が誕生し、その高市首相がサッチャーを尊敬する人物としてあげていることから思いもかけずタイムリーな本となりました。 本書は比較的オーソドックスな評伝のスタイルをとっており、斬新な切り口をとっているわけでもありませんが、サッチャーの歩みを丁寧に追うことで、彼女が意外に「信念の人」ではないということを明らかにしてみせています。 「鉄の女」という愛称からは「絶対に妥協しない」といったイメージが喚起されますが、実は表と裏の顔を使い分けて、自らの信念に反することも行った人物だったのです。 本書はこ
12月14 加藤喜之『福音派』(中公新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 アメリカ政治に大きな影響力を持つとされる「福音派」。中絶問題などでその影響力はうかがいしれますが、では、それ以外にどんな考えを持っていて、どのようにして政治に影響力をもつようになったかというと、日本人からはわからない部分も多いでしょう。 本書はそんな疑問に答えてくれる本ですが、その答え方が鮮やかです。キリスト教の教義に深入りしたり、歴史を遥か前まで遡ることなく、20世紀前半に登場したビリー・グラハムから1つの「運動」としての福音派を描き出します。 本書を読むと、日本にいるとなかなか見えてこない福音派がイスラエルを支持するロジックなど、アメリカ政治の背後にあるさまざまなものが見えてきます。 そのけっこうな部分は荒唐無稽だったりするわけですが、それが実際の政治に影響力を持ってしまっているのが現状であり、本書はアメリカ
12月4 是川夕『ニッポンの移民』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:社会7点 長年、日本の移民について研究し、政府の政策などにも関わり、OECDの移民政策会合メンバーも務めている著者が、日本の移民の現状と過去の政策、将来の展望について述べた本。 日本で排外主義の兆しが見られる中で、まさにタイムリーな1冊なのですが、同時に論争的な本でもあります。 とりわけ議論となりそうなのが、「日本に移民政策はなかった」とする「移民政策不在論」に対する批判と、入管行政には「埋め込まれたリベラリズム」があったとする主張でしょう。 一読しただけでも、それに対する反論・反例が思い浮かぶ人もいるでしょうが、とりあえずは著者の主張を追ってみたいと思います。 目次は以下の通り。はじめに序章 増え続ける外国人第1章 「日本に移民政策はない」は本当か?――現代日本の移民政策第2章 少子高齢化と移民を考えるために――移民政策の
11月24 善教将大『民度』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 なかなかのインパクトがあるタイトル。個人的に「民度」といえば宮台真司で、00年代に入ってから日本の現状を嘆く言葉として「民度」という言を連呼していたのを思い起こします。 その後、ネットなどで外国をdisる言葉として「民度」という言葉が使われるのを観測するようになりましたが、いずれにせよ「民度」はだいたい「低い」と結び付き、対象を批判する言葉として使われている印象が強いです。 そんな、ある意味で品のない「民度」という言葉を手がかりに日本の政治に迫ったのがこの本です。 著者は『維新支持の分析』などで実証的な研究を積み上げてきた研究者ですが、民度というのは「高い」「低い」と言われながらも数値化が不可能な概念で、正直なところ実証分析の対象として適当な概念ではありません。 しかし、このなんとも実証分析に適さない民度という概念に
11月3 上杉勇司『クーデター』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 一時は下火になっていたものの、ここ最近になってまたよく聞くようになってきた「クーデター」という言葉。2021年にはミャンマーで起きましたし、2024年の韓国でクーデター騒ぎは多くの人を驚かせました。 そんな再び注目を集めることになったクーデターについて、その発生要因や成功条件、21世紀になってからの特徴、抑止の方法などについて論じています。また、理論をもとに日本の二・二六事件を分析している章もあり、歴史好きの人にも楽しめる部分があります。 ある事象を包括的に論じているという点では、オックスフォード大学の「Very Short Introductions」に通じるところもあり、豊富な事例を取り上げながら、それを理論化するという形になっています。ルポ的な性格もあった、前著の『紛争地の歩き方』(ちくま新書)とはまた違っ
9月9 友松夕香『グローバル格差を生きる人びと』(岩波新書) 7点 カテゴリ:社会7点 副題は「「国際協力」のディストピア」。副題からは国際援助批判の本のように見えますし、実際にそういうところもあります。「緑の革命」批判など、昔からある批判を反復しているように思える部分もあります。 ただし、本書には現在の西アフリカの若い世代の様子を活写しているという類書にはない面白い部分があります。特に先進国の人びとを相手としたロマンス詐欺に勤しむガーナの若者の様子は、まさに「グローバル」と「格差」の双方を強烈に感じさせるエピソードとなっています。 他にも近年の開発のお題目ともなっている「女性のエンパワーメント」が、かえって現地の女性に過重な負担を押し付けているのではないかという指摘も興味深いです。 著者はJICAの協力隊員から研究者となり、アフリカとの行き来を続けている人で、現地を知る人ならではの面白さ
8月31 筒井淳也『人はなぜ結婚するのか』(中公新書) 7点 カテゴリ:社会7点 「人はなぜ結婚するのか?」、その答えとしては「好きだから」とか「一緒にいたいから」といったものがあるかもしれませんが、かつては政略結婚のような本人の感情を抜きにしたような結婚もありましたし、通い婚のように必ずしも同居しない結婚もあります。 また、昔から結婚と生殖は強く結びついてきましたが、基本的には子どもは生まれないと考えられる同性婚も広がりつつあります。 こうした状況の中で、今一度「結婚とは何か?」を問い直し、近年は何が変わろうとしているのかということを明らかにしようとした本になります。 著者は実証的な研究を行ってきた社会学者ですが、本書にはデータ分析の部分はほとんどなく、理論的に結婚を読み解こうとしています。 結婚について今一度根本に立ち返って考えたいという人向けの本と言えるでしょう。 目次は以下の通り。
8月25 横山勲『過疎ビジネス』(集英社新書) 7点 カテゴリ:社会7点 福島県国見町を舞台にした企業版ふるさと納税の闇を暴いた河北新報の調査報道をもとにした本。 著者は河北新報の記者であり(名前は「つとむ」と読みます)、ちょっとしたタレコミをきっかけにして、小さな役場がコンサルやそれに連なる企業によって食い物にされている実態を暴いていくことになります。 前半はスリリングで読ませますし、全体を通じてふるさと納税の問題点、そして人口減少の中で自治体の「創意工夫」に頼る国の政策の問題点が浮かび上がる内容になっています。 目次は以下の通り。第1章 疑惑の救急車第2章 集中報道の舞台裏第3章 録音データの衝撃第4章 創生しない地方第5章 雑魚と呼ばれた議員たち第6章 官民連携の落とし穴第7章 自治の行方 著者が国見町の町政に関心を抱くようになったきっかけは、「国見町の特別職三人が、自分たちだけの
8月14 越智萌『だれが戦争の後片付けをするのか』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 2022年に始まったロシア・ウクライナ戦争は人々に大きな衝撃を与えました。大国によるあからさまな侵略行為に衝撃を受けるとともに、ブチャで明らかになった虐殺や原発への攻撃など、国際的なルールが無視されていることに衝撃を受けた人も多いことでしょう。 同時に、戦争が継続中であるにもかかわらず、ICC(国際刑事裁判所]がプーチン大統領の逮捕状を取るなど、戦争犯罪を積極的に摘発しようとする動きが起こっていることに驚いた人もいると思います。 戦場では第一次世界大戦や第二次世界大戦を思わせるような戦いが続いていますが、それを取り巻く国際社会には変化も見られるのです。 本書は、国際刑事司法の専門家である著者がこうした戦争を取り巻く国際法や、実際にどのように戦争犯罪が捜査され裁かれるのかということを解説したもの
8月7 塩出浩之『琉球処分』(中公新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 琉球王国が明治政府の政策によって琉球藩にされ、さらに沖縄県とされた琉球処分という出来事については多くの人が知っていると思います。 しかし、教科書の記述に出てくるのは明治政府が何をしたかということだけであって、琉球側がそれにどのように対処したのかということはほとんど書かれていません。1つの「国」が消えたという大きな出来事だったにもかかわらずです。 このように今まで日本側からしか語られてこなかった琉球処分について、琉球側からの視点も取り入れて語っているのが本書の大きな特徴です。 本書を読むと、琉球側が激しく抵抗し、清などの諸外国を巻き込みながら、外交交渉のロジックにおいてはときに日本側を打ち負かしていたこともわかります。 また、琉球処分前の琉球のあり方を掘り起こすことによって、朝鮮においても問題となった中国を中心とする
7月31 鳥飼将雅『ロシア政治』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 ロシアではプーチンの権威主義体制がつづいており、国内での締付けは近年ますます強くなっているというのは多くの人が理解していることだと思います。 では、そのプーチン体制はどのようにできあがり、どのように強化されてきたのでしょうか? プーチンは具体的にどのようなやり方で独裁的な体制を維持しているのでしょうか? ウクライナとの戦争はプーチン体制を強化したのでしょうか? 弱体化させたのでしょうか? 本書は、そんな疑問に答えてくれる本です。 タイトルは「ロシア政治」ですが、ソ連崩壊後、ロシアはエリツィン体制とプーチン体制しか経験していなために、本書の内容はエリツィン体制の混乱からいかにしてプーチンが盤石な権威主義体制をつくり上げ、現在はどのように機能しているかということになります。 ロシアの権威主義体制というと、その「国民性
5月27 内務省研究会編『内務省』(講談社現代新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 本書の帯には次のように書かれています。なんだ? この怪物は……現在の警察庁+総務省+国土交通省+厚生労働省+都道府県知事+消防庁… 戦前に存在した巨大官庁・内務省、本書はその全貌を明らかにしようとした本です。 編者となっている「内務省研究会」は2001年に若手の政治学者や歴史学者が集めってできた研究会で、目次を見ればわかるように錚々たるメンバーが参加しています。 550ページ超えで、内容的には2分冊にしてもいいくらいですし、内容的には「ハードカバーでやっても」という感じではあるのですが、2分冊の新書は買いづらい、読みにくいですし、ハードカバーでこのボリュームだと値段はおそらく5000円近く、そう考えるとこのスタイルで正解かもしれません。 最新の研究を踏まえた記述もありますが、構成が大きな流れから細かい部
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