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映画『ヒンド・ラジャブの声』公開に先立ち、都内でインタビューに応じるカウテール・ベン・ハニア監督。(安田菜津紀撮影) 映画『ヒンド・ラジャブの声』が9月4日、日本で公開となる。パレスチナ・ガザ地区で2024年1月、家族を殺害され、自らも車中で砲撃の恐怖にさらされながら命を奪われていった、6歳1の少女の実話だ。助けを求める電話を受けた赤新月社のチームがいるのは、ガザではなく、ヨルダン川西岸地区の中心地ラマッラーだ。しかしガザと西岸の間には「イスラエル領」が立ちはだかり、自由な往来は阻まれている。 ヒンドさんや家族らが乗っていた車には、300発以上の銃弾が撃ち込まれていたとされる。救助に駆けつける寸前だったガザの救急隊員も無残に爆殺された。 この映画が問いかけるものは何か。チュニジア出身で本作監督のカウテール・ベン・ハニアさんに伺った。 システムに組み込まれた暴力 ──ヨルダン川西岸・ラマッラ
「令和5年 平和宣言の骨子(案)」と記された資料。構成要素の「被爆体験証言の引用」や「G7広島サミット」などすべての項目の内容が黒塗りされている。(筆者撮影) 本記事はジャーナリストの宮崎園子さんによる寄稿記事です。 広島原爆の日の8月6日、広島市が挙行する平和記念式典。その中で市長が世界に向けて発信するメッセージは「平和宣言」と言われる。4期目の松井一實市長は今年、自身16回目となる平和宣言を、各国代表や被爆者、遺族ら5万人の来場者の前で行なった。出だしはこうだった。 「被爆から81年が経過した今、私たちが暮らすこの地球上では、核を脅しの道具に使った軍事侵攻や国際法をないがしろにする大国の横暴な振る舞いが繰り返されています」 なぜその表現? 作成プロセスがまるで見えない その時々の世界情勢に言及しつつ、被爆地の願いを発信してきた平和宣言。2023年以降はほぼ毎年「ロシアによるウクライナ侵
近年フェミニズムに関する様々なカルチャー作品が登場している韓国では、激しいバックラッシュも起きています。 女性やマイノリティの人権を軽視する家父長制や、有害な男性性の背景にあるものとは何かー。今年日本で映画化予定の小説『僕の狂ったフェミ彼女』の著者、ミン・ジヒョンさんと一緒に考えていきます。 ミン・ジヒョンさん(佐藤慧撮影) 韓国と日本、小説への反響の違い 『僕の狂ったフェミ彼女』(ミン・ジヒョン 著 / 加藤慧 翻訳、イースト・プレス、2022年)フェミニストとして活動するようになった初恋の「彼女」の姿を、再会した「僕」の視点から描いている。 ――ミン・ジヒョンさんの小説『僕の狂ったフェミ彼女』は2019年に韓国で出版され、その後2022年には日本でも翻訳版(加藤慧 翻訳、イースト・プレス)が刊行されました。 韓国での出版後は、ポジティブな反響と共にバッシングも大きかったそうですね。 ネ
2024年9月1日、朝鮮人犠牲者追悼式典で。(安田菜津紀撮影) 学校帰り、好きな漫画の最新号が出ていないか、気になる新刊はないかと、最寄りの駅前の本屋に立ち寄る。そんな高校時代の「ルーティーン」はいつしか変わり、私は本屋に寄りつかなくなった。自分のルーツを知った後、当たり前のように出入りしていた本屋の光景が、全く違うものに見えるようになったからだ。 父と兄は、私が中学生の時に亡くなっている。後に戸籍を手にし、父が在日コリアンだったことを初めて知った。父がルーツを最期まで「語れなかった」のは、差別の実情と切り離すことはできないと、今は考えている。 あえて特定の国に対する敵意を煽るような本が、こんなに目立つところに置かれていたのか――。高校生の私は、父のルーツを知ったことで、ようやくその光景に「気づいた」のだ。だからこそ、思う。書店に入るだけで怯えなければならない経験を、誰にもしてほしくない、
ソウルでインタビューに応じるドンヒョンさん(左)とヘチョさん。(安田菜津紀撮影) ※本記事には暴行や性加害に関する証言が含まれます。ご注意ください。 2026年春、パレスチナ・ガザ地区に対するイスラエルの不法な封鎖、占領が続く中、歴史上最大規模となる「グローバル・スムード船団(Global Sumud Flotilla)」のミッションが敢行された。世界100カ国以上から集まった3,000名を超える市民や医療従事者、そして70隻以上の民間船が地中海に集結。バルセロナやマルセイユ、シチリアなどの港から、封鎖に苦しむ人々へ人道支援物資を届けるべく、ガザ沖へと舵を切った。 しかし、この非暴力ミッションを待ち受けていたのは、国際法を無視した国家権力による排除だった。同年5月18日から20日にかけて、軍事占領を継続するイスラエル海軍が、国際海域(公海)上において船団を不当に拿捕した。銃口を突きつけられ
液状化を受け、通行止めになっているエコパーク水俣に隣接する市道。(2026年8月7日撮影) 7月28日に発生した熊本地震で、水俣市は震度5強の揺れに見舞われ、「エコパーク水俣」では一部で液状化が確認された。水俣湾内の水銀ヘドロを浚渫(しゅんせつ)した埋め立て地は約58ヘクタールに及び、そのうち41.8ヘクタールがこの「エコパーク水俣」だ。園内にはソフトボール場などのスポーツ施設も備えられている。 1932年から、チッソは有機水銀(メチル水銀化合物)を含んだ排水を海へ流し始め、水俣病を引き起こした。ヘドロや汚染魚の詰まったドラム缶を、鋼板で囲み土砂で覆うなどの埋め立て工事は1977年から開始され、1990年に完成した。 老朽化による影響や地震による液状化のリスクは以前から指摘されていた。県水俣湾公害防止事業の事業所長も務めた小松聰明さんはかつて、「水俣湾の埋め立てを検討するメンバーに地震の専
2024年5月、国会前シットインで掲げられたプラカード。(安田菜津紀撮影) 在留期間や就労分野に制限のない「永住権」を持つ人々は、昨年末時点で約94万7千人いるとされている。ところが、税や社会保険料などを納めない場合などに、永住許可を取り消せるようにする法改定が2024年に成立、2027年4月に施行されることになっている。税や社会保険料の滞納が恣意的に「故意」とみなされ、永住権を奪われてしまうのではと、懸念の声があがってきていた。 また今年5月には「永住許可」の手数料上限を1万円から30万円へと大幅に引き上げる法案が成立し、10月に施行されるほか、「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」が作られ、「永住許可に関するガイドライン」もさらなる改定が予定されている。その問題点について、国士舘大学文学部教授の鈴木江理子さんに聞いた。 「一部の悪質な存在」を前提とする総論の歪み ──「永住者
「ヘイトにNO!全国キャンペーン」のチラシ。(佐藤慧撮影) 差別や排外主義の根絶と多民族・多文化共生社会の実現を目指す11団体が立ち上げた「ヘイトにNO!全国キャンペーン」は、2026年7月28日、参議院議員会館にて「第1次キャンペーン」の成果と今後の取り組みに関する記者会見を行った。本会見では、約半年の活動で寄せられた20万筆を超える署名の成果が報告されたほか、公的機関による「官製ヘイト」への危機感、そして地域社会と連携した今後の差別反対運動の展望が語られた。 「今回の報告に『第1次』と名付けたのは、活動をここで終わらせず、今後も継続していく決意を示したからです」 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)共同代表の鳥井一平さんはそう語る。その背景には、今なお続く行政や制度による排外的な「官製ヘイト」への、強い問題意識があるという。在留資格の更新はより厳しくなり、日本育ちの子どもたちが突
国際刑事裁判所(ICC)のビル外観。(写真:OSeveno <CC BY-SA 3.0>) 本記事は西南学院大学法学部教授の根岸陽太さんによる寄稿記事です。 「レンガを一つずつ取り外すように」 「必要ならば、レンガを一つずつ取り外すように、国際刑事裁判所(ICC)を解体する」1。2026年7月13日、米国トランプ政権で国務長官を務めるマルコ・ルビオ氏は、ICCに対する新たな組織的攻撃をこう表現した。ICCは、ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪という、いわゆる「中核犯罪(コア・クライム)」について個人の刑事責任を問う常設の国際裁判所である。国家間の紛争を扱う国際司法裁判所(ICJ)とは別の機関だが、ともにオランダ・ハーグに置かれ、国際社会における法の支配を支えている。 ルビオ長官は「レンガ」に言及したが、ICC本部の外観の主役はレンガではない。ガラスと金属、青と白を軸とするタ
イラクの武器市にて(佐藤慧撮影) 防衛大臣が海上幕僚長を「軍人」としてSNSに投稿し、自衛隊の階級呼称を旧日本軍式に戻す方針が決定するなど、自衛隊のこれまでのあり方を揺るがす動きが続いています。 武器輸出解禁に踏み切り、平和国家としての方針が大きく変えられる中で起こった、自衛官による中国大使館侵入や自民党大会での国歌斉唱。そこから見える自衛隊の変化とは―。 フリージャーナリストの布施祐仁さんと、市民一人ひとりにできることを考えます。 布施祐仁さん(本人提供) 武器輸出解禁の問題とは ――4月21日、日本政府は防衛装備移転三原則と運用指針を改定し、殺傷能力のある武器の輸出を解禁しました。どんな点が問題なのでしょうか。 日本が輸出した武器によって他国の人間の命が奪われる、そこが一番大きな問題だと思います。「紛争中の国には輸出をしない」というこれまであった制限も、特段の事情がある場合には輸出可能
不知火海を臨んで。(安田菜津紀撮影) 水俣病の公式確認から70年。原因企業であるチッソ* は、日本の植民地支配下にあった朝鮮半島にも進出し、様々な問題を引き起こしていました。 多くの人々の暮らしを奪った大規模なダム建設や、工場近隣地域での公害など、いまだ十分に検証されていない植民地主義による「加害の歴史」について、一橋大学大学院社会学研究科教授の加藤圭木さんにうかがいました。 * 本記事では、戦前の日本窒素財閥を含め、チッソという呼称で統一しています。 加藤圭木さん(本人提供) 差別が水俣病を引き起こした ――加藤さんご自身が水俣と朝鮮のつながりに注目したきっかけは何だったのでしょうか。 チッソが朝鮮で収奪的な経営をしていたことは、研究者の間ではよく知られている事実なのですが、朝鮮史を研究してきた私自身、正直なところ水俣については、いずれ考えてみたいという思いにとどまっていました。 深く考
マニラに残る「サンチャゴ要塞」は日本軍政下、憲兵隊本部が置かれており、600人以上が殺されたとされている。(安田菜津紀撮影) ※本記事には戦時性暴力や拷問などの記述があります。閲覧にはご注意ください。 「少なくとも私自身は、当事者とは言えない世代ですから、反省なんかしておりませんし、反省を求められるいわれもないと思っております」 1995年6月に衆議院で採択された「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議」(不戦決議)に先立ち、当時は新進党にいた高市早苗首相は外務委員会でこう述べている。 「戦後」を生きる世代に「反省」は無用なのだろうか。「戦後」という言葉は、どこか戦争による加害を「過去のもの」として切り離す響きがある。しかしその被害は当事者の生活を、貧困で、トラウマで、破壊し続ける。そして加害国が「省みない」ことは、その痛みの存在すら否定する暴力となる。 1941年12月8日、ハワイの真
「ヘイトスピーチ解消法」前文。(佐藤慧撮影) ※本記事には差別文言が記載されています。閲覧にはご注意ください。 2016年5月に成立した「ヘイトスピーチ解消法」(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が施行されてから、今年で10年が経過した。この間、かつて新大久保や川崎などの路上で行われたあからさまなヘイトデモや集会は、法的な根拠や各地の自治体条例の整備によって、一定の減少を見せた。 しかし、そうしたヘイトはより拡散力の強いインターネット空間で増殖し続け、無数の匿名集団によるリンチとなり、刃を向けられた人々の命を奪いかねない事態となっている。 本来、日本は「人種差別撤廃条約」の締約国であり、同条約第2条1項により、あらゆる人種差別を「禁止し、終了させる」法的義務を負っている。 しかし、現行のヘイトスピーチ解消法は明確な「差別禁止規定」も「救済規定」も「罰
前回の大統領選・決選投票の日、ペトロ氏勝利と史上初の左派政権誕生を喜ぶ人々が首都中心に集まり、雨の中、歓声をあげた (柴田大輔撮影/2022年6月) 南米コロンビアで行われた大統領選挙。長年伝統的な右派政権が続いてきたコロンビアで、2022年に初めて成立した左派政権の存続が問われましたが、トランプ米大統領が支持する新興の右派候補が勝利し、衝撃が広がっています。 武装組織との対話による紛争終結を目指し、社会的包摂や気候変動対策などの政策が国際的にも評価されてきた左派政権はなぜ敗北したのか。現地で取材を続けてきたフォトジャーナリストの柴田大輔さんに寄稿いただきました。 コロンビアで6月21日、大統領選の決選投票が行われ、無所属で右派のアルベルト・デラエスプリエジャ氏が得票率49.6%で、現在の左派政権継承を掲げたイバン・セペダ氏の48.7%を僅差で上回り、当選確実となった。結果は選挙当局の速報
内閣広報室が作成した資料。 「重要施策に関する事実や、政府の考えを伝えるためのもので、報道を監視する意図はない」——「内閣広報官」のXアカウント について、6月2日、木原稔官房長官はこうコメントしている。 首相官邸の公式Xが《内閣広報室試行アカウントは、本日から、内閣広報官アカウントに名称を変更し、引き続き、色々な投稿を試していきます。よろしくお願いします!》と発信しているように、5月1日に「内閣広報室試行アカウント」としての投稿が始まったものが「衣替え」となった。 アカウントの「中の人」は1月に就任した佐伯耕三内閣広報官で、安倍晋三内閣(当時)の首相秘書官を務め、同氏の演説草稿のスピーチライターを務めていた。 この間、当該アカウントでは報道を「論評」する投稿も行われており、冒頭の木原官房長官の応答につながっている。しかし本当に「意図はない」のか、そしてあからさまな「意図」だけが問題なのだ
「差別発言をする恐れがあったとしても、個別に反論すればいい」――ヘイトスピーチを繰り返す公人のイベント登壇などに批判の声があがると、必ずと言っていいほどそんな言説が飛び交う。 東京大学・五月祭で企画された、参政党・神谷宗幣氏の講演会についても同様の声があがった。もちろん、爆破予告といった暴力的な手段は、誰に対してであろうと用いてはならないことは大前提として記しておく。 この「個別に反論すればいい」は、ヘイトスピーチも「言論」の一部であるかのような「フラット」な扱いをしてしまうことになりかねない。「表現の自由」は「差別の自由」ではないはずだ。 差別はそもそも、力の不平等や権力勾配のもとで起き、属性や存在そのものを否定された人々に沈黙を強いる。名の知れた人物から称賛を受けたり、「権威」ある場に招かれたりすることで「お墨付き」が与えられれば、その勾配はなおさら強固なものになるだろう。「個別に反論
かつて追放された家の鍵を握りしめるルビン村出身のウム・ハーレド・アル=スワルカさん(78)。(モハンメドさん撮影/2021年) イスラエルによる国際法違反の占領や虐殺は続いています。1948年5月14日のイスラエル建国以前から、多くのパレスチナ人が故郷を追われてきました。毎年5月15日は「ナクバの日」とされ、悲劇を記憶し、帰還の権利を主張する日とされています。ガザ地区出身のD4P現地取材パートナー、モハンメド・H・サレムさんによる寄稿記事です。 モハンメド・H・サレム(Mohammed H Salem) パレスチナ・ガザ地区出身の写真家。様々な写真エージェンシーと協働するほか、プラットフォーム「Untold Palestine」の共同創設者の一人でもある。その作品は、国内外の多くの雑誌やメディアで発表されている。また、フリーランスとして「アルジャジーラ・イングリッシュ」とも提携している。
(提供:武本匡弘さん) 本記事はノンフィクションライターの高橋真樹さんによる寄稿記事です。高橋さんは持続可能性や人権問題をテーマに取材・執筆を続けており、国際協力、核廃絶、パレスチナ難民支援などに携わってこられました。 物資を止められて飢えに苦しむガザの人々に、危険を覚悟で食糧や支援物資を運ぼうとする人たちがいる。 「不屈の船団」を意味するGSF(グローバル・スムード・フロティラ)は、イスラエルの海上封鎖を突破して、支援物資をガザに届けることをめざす国際的な船団だ。合言葉は「正義よ、私たちの風になれ!(Justice, Be Our Wind!)」である。 GSFは、2025年に2度の航海をしている。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが参加したことで注目を浴びたが、いずれも公海上でイスラエル軍が拿捕、乗組員は拘束され、暴行を受けた(※)。 (※)イスラエルによるガザの海上封
記者会見で発言するAさん。(安田菜津紀撮影) 2度の難民申請で不認定となっていたカメルーン出身の男性Aさんが、不認定処分取り消しなどを求めた裁判で、4月15日、東京高裁は一審に続き、男性を難民と認める判決を言い渡した。国が上告を断念し、判決は確定。Aさんは代理人である駒井知会弁護士とともに5月2日、都内で会見を開いた。来日してからすでに、14年以上の歳月が経過していた。 カメルーンではフランス語圏に置かれた政府に対し、英語圏の分離独立を求める運動が続いている。英語圏の市民への差別に疑問を感じたAさんは、英語圏の自由、自立を求める政治団体「南カメルーン国民会議」(SCNC)に所属していたが、2004~11年にかけて4度逮捕され、うち3回は激しい拷問、暴行を受けている。「政治集会に参加していたり、デモに加わったりという活動での不当逮捕が日常的に起きている中で、Aさんもその犠牲者の一人です」と駒
ハラブジャ平和博物館に展示されている戦車。(安田菜津紀撮影) 高市政権は21日、防衛装備移転三原則と運用指針を「改定」し、殺傷能力のある武器の輸出を全面的に解禁した。輸出可否の判断は「国家安全保障会議(NSC)」が行い、輸出の際の国会承認を不要としている。「平和国家」の日本が大きく変わってしまう――こうした声を上げることは大切なことだ。 同時に、果たして日本がこれまでも「平和国家」と呼べる振る舞いをしてきたのかと考える。国家の変質は「急に」起きたことではないのではないか。 「平和憲法」からそもそもはじき出されてしまった人々の存在を、一部ではあるが【「選挙は大切なものだから大丈夫だよ」とまた言える社会に】に記している。また、【書籍『遺骨と祈り』プロローグ抜粋】にも綴っているが、「日本」の中にも周縁化の暴力や理不尽な権力勾配が歴然と存在する。 同記事でも伝えているが、2024年、私は東ティモー
衆議院第二議員会館前に掲げられた「ヘイトにNO!入管法改悪反対国会前行動」のバナー。(安田菜津紀撮影) 入管法の「改悪」が続いている。2023年には「3回以上の難民申請者の強制送還」などを盛り込んだものが可決され、すでに施行されている。2024年には永住資格を不安定化させる法案も成立した。さらに石破政権下の昨年5月、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」が発表された。支援者らへの取材によると、進学が決まっていた子どもまでを含めた家族ごとの送還や、親だけを日本から追い出し家族を引き裂くケースもあったという。 そして現在、国会に提出されている入管法改定案では、外国人の在留資格変更、もしくは在留期間変更手数料の上限を、現行の1万円から10万円に、永住許可の手数料上限を1万円から30万円へと、大幅に引き上げることが盛り込まれている。 4月21日、衆議院法務委員会では参考人質疑が行われた。
2026年3月に開催された「家賃高すぎ。なんとかしろ!デモ」(佐藤和宏さん提供) 都市部を中心に全国的に高騰する家賃。その背景には、どのような住宅政策上の課題があるのでしょうか。入居差別の深刻な課題に直面する人々もいます。 誰もが安心して住み続けられる社会に必要な視点を、高崎経済大学准教授の佐藤和宏さんと考えます。 佐藤和宏さん(本人提供) 増加し続ける住居費負担 ――日本の住宅問題には、どのような特徴があるのでしょうか。 これまで日本の住宅政策には、「仕事と家族が安定していれば、住宅は問題ではない」という発想が強かったと思います。 象徴的なこととして、たとえば日本の「住宅手当」(「住居確保給付金」)は、「仕事がない人が仕事を探している間のみ住宅の家賃分を負担する」仕組みになっています。 平山洋介さんが著作1で書かれていますが、仕事と家族が「安定」していることを「普通」と考え、それ以外には
ハンガリーの首都、ブダペストの街並み。(安田菜津紀撮影) 「日本から来たのか? 地震があって大変な国だよな。まあ、といってもこの国にも“ジプシー”がいて大変だが……」 2022年5月、私はウクライナから避難した人々を取材するため、隣国ハンガリーで取材をしていた。空港から首都ブダペストの街中に向かうタクシーの中で、運転手は特に悪びれる様子もなく、ロマの人々に対する蔑称を連呼し続けた。 「ほら、あのタクシーアプリの運転手なんてジプシーばっかりだ。気を付けろよ」 これは彼個人だけの問題ではなかった。 「ウクライナの人々と、これまでの中東からの移民・難民はもちろん違いますよ」 ブダペスト市内で面会した男性は、難民支援の在り方について問われ、こう答えた。私はてっきり、置かれた境遇の格差について話題にしているのだと思い、「人種や民族の間に不合理な違いを作り出して、命の線引きをしてはならない」といった趣
春らしくなってきた秋田の木々(三浦美和子撮影/2026年) 「地方の女性」の生きづらさについて意見を求められることが、この1、2年の間にたびたびありました。「地方から女性が流出する理由」を尋ねられることもありました。 私は毎回、言葉につまりました。「地方の女性」はあまりにも多様で、一人ひとり違うからです。「地方の女性」をひとくくりにして語るのは、とても難しいことでした。 それでも自分なりに考えて、相手が納得のいく答えを語ろうと努めました。「地方の女性」はなぜ生きづらいのか、「地方の女性」はなぜ地方を出ていくのか――。 「地方女性の意識調査」などを見れば、一定の手がかりをつかむことはできると思います。しかし現実はもっと複雑で、矛盾したり迷ったりしながらそれぞれに生きています。そのような複雑さをそぎ落として、相手が求めているであろう「わかりやすい地方の女性の経験」を答えることしか、自分にはでき
治安維持法の法令。(佐藤慧撮影) 「治安維持法の再来」とも懸念される「スパイ防止法」――。政府は2025年8月、スパイ防止法の立法事実は現行法下で存在しないに等しいととれる見解を示していましたが、与党が大幅に議席を増やした今、強力に推進していくとみられています。 この法案が成立した場合、市民の自由や日常生活にどんな影響を及ぼすことになるのでしょうか?国の情報や監視に関わる法律を長年研究し、市民の自由を守る立場で警告を発してきた、弁護士の海渡雄一さんにうかがいました。 海渡雄一さん(本人提供) スパイ防止法の「3本の柱」と立法事実への疑問 ――「スパイ防止法」について、政権はどんな法律だと説明しているのでしょうか? 自民党と日本維新の会の連立合意に盛り込まれた内容には、3本の柱があると思います。 まず各省庁の情報活動を統括する「国家情報局」を創設すること。これは今の国会で出てくるだろうと思い
日本に暮らす、日本国籍以外の人々に対し、生活し続ける「ハードル」が引き上げられている。「経営・管理ビザ」の要件となる資本金は2025年10月、500万円から3000万円と6倍になり、在留資格の更新手数料なども大幅な引き上げが検討されている。さらに茨城県では、「不法就労」(※1)の通報に対する報奨金制度が導入されようとしている。こうした公的排外主義の問題をどう考えるか。外国人の人権問題に長年関わってきた児玉晃一さんにインタビューした。 (※1)外国人人権法連絡会の声明にもあるように、国連は1975年の総会決議3449で、全公式文書において「非登録あるいは非正規移民労働者」という用語を使うよう求めている。 児玉晃一弁護士。(安田菜津紀撮影) 多様な文化を理由もなく摘み取る ――経営・管理ビザの要件が、資本金500万円から3000万円に引き上げられました。どのような影響が懸念されますか? 既存の
2018年、イラン政府に弾圧され隣国のイラクに逃れてきた政治団体の本拠地に向けて、イラン側から7発の弾道ミサイルが撃ち込まれた。(安田菜津紀撮影) 本記事は西南学院大学法学部教授の根岸陽太さんによる寄稿記事です。 奪われた教室、静寂のなかの叫び 2026年2月28日、イスラエルと米国によるイランへの大規模な武力行使が開始された。その直後、イラン南部ホルモズガーン州ミナーブ(Minab)の女子小学校にミサイルが直撃した。授業中だった校舎は瓦礫と化し、150人から160人以上もの生徒と教師が犠牲となった。国連人権理事会が設置した「イラン・イスラム共和国に関する国際独立事実調査団」によれば、その大多数は7歳から12歳の少女たちだったという。この悲劇は、「付随的被害(コラテラル・ダメージ)」という言葉で片付けられてよいはずもない。そこに確かにあった日常が、突如として瓦礫と化したのである。遠く離れた
「あぎじゃびよ〜」 衆議院議員選挙の結果にこれ以外の言葉が出ない。 ほんとうに言葉が出ないということがあるのだ。 2025年7月の参議院議員選挙、10月の自民党総裁選挙、そして今回の衆議院議員選挙。 この中で盛り上がる排外主義の波に息もできないような日々が続いている。 本当は、日本側の問題、「日本人(やまと人)の問題」であるはずの種々の問題が、「外国人問題」として設定され、人々の経済的困窮や不安定さのスケープゴートに利用された。 30年以上の期間をかけて法律を何度も変え、在留資格を拡大し、外国籍の人々の数だけを増やして、まっとうな移民政策をとらなかった政権が、自らがやってきたことの責任をとらないばかりか、それを無視し、排外主義の旗手となっているような状況だ。 資金源が不透明な議員が当選したり、沖縄の4つの小選挙区でも保守系の政党が勝利した。与党側を示す赤い色で塗られた選挙結果の日本地図をみ
秋田市在住でフリーの記者としてジェンダーやセクシュアリティ、人権について発信している三浦美和子さんの新連載『私たちはつながっている』。第1回をお届けします。 ZINE「地方でこっそりフェミニストやってます。〜この社会で生きるために隠れているあなたに〜」ジェンダーを考えるひろしま県民有志(三浦美和子撮影/2026年) この冬、広島の女性たちがつくったZINE(冊子)を読みました。 タイトルは、「地方でこっそりフェミニストやってます。〜この社会で生きるために隠れているあなたに〜」。地方の息苦しさ、生きづらさが、そこに暮らす人の言葉でつづられていました。まえがきには、こんな一文がありました。 〈地方でフェミニストとして息をひそめるように暮らす「隠れキリシタン」のような私たち〉。 隠れキリシタン、という言葉を目にしたとき、ここにもいます、と小さく手を挙げたくなりました。 秋田の雪の海(三浦美和子撮
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