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参議院選挙2025
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インフレ目標は,いまや各国中央銀行で標準になっている.ところが,そのはじまりは,ニュージーランドで起きた何気ない発言と政治的なギャンブルだった――経済学者たちが真面目に取り合うのよりもずっと前のことだった. 今日の中央銀行の大半は,インフレ率の目標を設定している:つまり,インフレ率の数値目標を政府が公表して,中央銀行がその達成の任務にのぞむ.そのために用いる方法は,金利の変更,預金準備率の設定,金融証券の売買だ.昔からずっとそうだったわけではない.1990年代以前には,多くの中央銀行がマネーサプライや為替レートを目標に設定していた. インフレ率を目標に設定するように変わったといっても,べつに,専門家たちのあいだで「中央銀行に改革が必要」と共通意見が醸成されたおかげでも,経済学者たちの研究のたまものでもない.1980年代にニュージーランドの財務相を務めていたロジャー・ダグラスが明確なインフレ
もう何年ものあいだ,「アメリカの賃金は何十年も上がってない」というグラフや言辞やミームがあれこれと洪水のように出回っている.たとえば,バーニー・サンダースは定期的にこんなことを言っている――賃金は50年前よりも下がっているのですよ.でも,それってホントだろうか? ちがうよ.この主張の根拠は,ただひとつのデータセットだ:民間部門の平均時間給を消費者物価指数で割った数字が,それだ.この賃金指標を見ると,たしかに1973年を2019年の賃金は下回っている.でも,かわりに PCE 物価指数を使うと――つまり,過去に消費されていたモノではなくみんなが現在消費しているモノの価格変動を見てる数字を使うと――様相は一変する: これだけでも,アメリカ経済全体が賃金成長をもたらしているのを示すのに十分だ(もちろんもっと伸びててくれればそれに越したことはないけど).でも,賃金トレンドに関してぼくらが個人レベルで
出生率をめぐる世間の議論は,ひどく呪われている.高齢化と人口縮小は,長期的に見て経済の大問題だけど,まだ誰も,解決法を考えついていない.それでいて,この問題をめぐる論争がはじまると一瞬で人種差別と性差別へと堕落していって,さらに,人種差別と性差別の非難が続く.そのせいで,この迫り来る脅威と真剣に向き合う用意を,社会全体としてのぼくらはまだ整えられずにいる. なぜこうなっているかというと,ひとつには,女性の教育と出生率に成り立っている相関がある.このグラフを見てもらおう.平均的な女性が高校を卒業する国に,出生率が高いところはひとつもない: Source: Peter Hague 右派がこの相関を見ると,たんに因果関係がうかがえるだけじゃなく,鉄の法則が浮かび上がってくる――「人類を維持したければ,女の子たちが学校に行くのと止めないといけない」ってことになってる.それで,彼らはこう信じているわ
多くのアメリカ人は,こう信じている.「ここ数十年で,家電の耐久性はどんどん落ちてきた.」 これに対して,Wirecutter のレイチェル・ウォートンが秀逸な反論を書いてる.彼女の結論は,ぼくが衣服の品質を調べて見つけたのとそっくり,うり二つだ:たしかに,耐久性はいくぶん下がっているけれど,それをもたらした主な要因は,購買客たちの好み・規制の変化・ボーモル効果だ.べつに,企業のよこしまな行いのせいでも,文化の堕落のせいでもない. 「みんな言うよね,『メイタグの洗濯機は50年使えたのに』って.」 かつて家電メーカーのワールプール・コーポレーションで製品エンジニアをしていたダニエル・コンラッドはそう語る.彼はいま,商用冷凍設備会社で,設計品質・信頼性・製品検証部門の責任者を努めている.「でもね,そこまで長持ちしなかった他の450万台の洗濯機のことは,誰も語らないんだよ.」 利用可能な証拠を見る
私はグローバル気候変動が突きつける哲学的問題に専門家として関心を抱いてきた。このテーマで本を書いたり、講演をしたり、カンファレンスに出たり、パネルとして発言したりもしてきた。だがこうしたイベントに出ると大抵、(少なくない人にとって意外に思われるだろう理由で)ひどく苛立たしい思いをすることになる。こうした場の多くで、本来なら気候変動の突きつける真に厄介な哲学的問題(まずもって将来世代に対する私たちの責務をどう考えるかに関わっている)に集中したいところなのに、かなりの時間をデマ(misinformation)の訂正に費やすことになるのだ。念のため言っておくと、ここで問題にしているのは、一般市民ではなく、大学教授がよく信じてしまう類のデマである。 気候変動に関するデマが深刻な問題であることは誰でも知っている。国連がこのテーマに関して大規模なレポートを出したばかりだ。残念ながら国連のレポートも、右
メディアの未来についてちょっと考えてみたこと この記事はクリス・ベストの見解を反映するものではない.執筆者に名前を入れているのは,動画チャットの方に出てくれているからだ. 先日,Substack の CEO クリス・ベストとおしゃべりをした.動画は上に貼り付けてある.話題は,メディアの未来だ.もっぱら,みんながニュースや分析をどうやって共有しているのかってことが議論にのぼった.かつて,突発的なニュースや議論を見つけようと思ったら X(旧 Twitter)にいけばなんでも間に合った.いまや,X がかつての有用性を大きく失ってしまってる点については,ぼくら2人は同意見だ.そして,Substack がその役割を引き継げそうな方法についても,いくらかアイディアを話し合った. このおしゃべりを収録したすぐ後に,X が部分的につながらなくなる障害が起きた.べつに,すごく珍しいことでもない――障害なんて
あなたのお気に入りの哲学者を困らせたいなら、最近だと一番良い方法は、箱の上に乗った子どもたちのイラスト(「平等と公平」ミーム)を見せることだ。これを哲学者の苦しみの種というのは言い過ぎかもしれないが、哲学者の仕事を楽にしてくれないのは確かである。 哲学者のほとんどはこのイラストを見たことがあるが、それ以上に重要なのは、学生はみなこのイラストを見たことがあるということだ。それだけでなく、学生たちはこのイラストを持ち出せば議論を完全に打ち切れると考えている。学生らに言わせると、このイラストは「公平性(equity)」の正確かつ議論の余地ない定義を示しており、「平等(equality)」という道徳的理念を決定的に打ち負かしているのだという。そうすると、哲学者たちが未だに平等というテーマについて論ずべき問題があると考えている事態は、非常に謎めていて見えるだろう。 哲学者にとっては残念なことに、この
変化率がマイナスの場合、線は右肩下がりとなる。グーグルで「線は下降する」を検索して最初にヒットしたのが上の図だ。 (私は『国際経済』誌の円卓会議コーナに時々寄稿している。今月のお題は、「金融危機後の2007~2009年の超低金利が格差と資産バブルの拡大に一因になったのか」という懸念についてだった。寄稿者は、2007年以降の金融政策をA~Fの5段階で評価するように求められた。) 〔訳注:アダム・ポーゼンのような有名なエコノミストから、各国中銀関係者、さらにメイソンのような非常に左派的な経済学者と様々な学識関係者が評価を行っている。ポーゼンはA評価。中銀関係者は概して低い評価を行っている。〕 私は総合的に、低金利政策という実験にBの評価を下した。低金利政策は、コストがあると騒がれすぎだ。一方で、メリットについても過大評価されている。低金利政策からの主な教訓があるとすれば、伝統的な金融政策は、極
それこそ,日本のポップカルチャーが世界中で成功している秘訣だ スペンサー・コーンハーバが『アトランティック』に寄稿したエッセイ「アメリカ・ポップカルチャー史上最悪の時代が到来か?」が公開されてから,2週間で大きな反響がうまれている.友人のW・デイヴィッド・マークスやノア・スミス〔当サイトでの翻訳はこちら〕をはじめとして,多くの人たちがこれに触発されて議論に参加してきた――「アメリカは本当に『文化の暗黒時代』に入ったのか?」「もしそうだとしたら,理由は?」 そこで展開されている主張は,こう続く.「アメリカのテレビ・映画・音楽は後ろ向きになっている.昔から続いていてもう味がしないシリーズを繰り返したり,ヒット作の前日譚を出してみたり,リブートをやってみたり,「インターポレーション」をやったり,派生作品をつくったりするばかりだ.一方,オンラインでは,インフルエンサー志望者が形になってないコンテン
近年、アメリカのポップカルチャーは停滞しているとの話題を頻繁に見かける。こうした主張は疑ってかかるべきで、こうした不満は特に目新しいものじゃない。ドワイト・マクドナルドは、20世紀半ば、何十年間も大衆文化を激しく批判していた。マクドナルドは、大衆文化(マスカルチャー)は、ハイカルチャーを汚染し、吸い上げていると考えていた。1980年には、ポーリン・ケイルがニューヨーカー誌に「なぜ映画はこんなに駄目なのか? あるいは数字について」と題した論説を書いて、映画スタジオの資本主義的インセンティブが、派生的な駄作を生み出している原因になっていると主張した。 [1]原注:これらの例を僕はAI(ChatGPT … Continue reading なので、「なぜアメリカのポップカルチャーは停滞しているのか?」という疑問に答えようとすると、そもそも問題になっていない問題について適当な説明をしてしまう危険性
Photo by Maximillian Conacher on Unsplash 保護主義を唱える人たちの物語は,事実より迷信に近い もう何年ものあいだ,「アメリカは製造業を強化すべきだ」とぼくは提唱し続けている.再工業化にアメリカ人が乗り気になったときには,ぼくは「いいぞいいぞ」と応援した.ジョー・バイデンの産業政策をぼくは大いに支持していたし,一期目のドナルド・トランプが自由貿易志向のコンセンサスを打ち壊したのを称賛すらした. トランプ関税を経ても,その点についてぼくの考えはまったく変わっていない.たしかに,この関税は災厄だ.ただ,それはべつに,製造業を強化しているから酷いんじゃなくて,逆に,こうしておしゃべりしてる間にもアメリカの脱工業化を進めているから酷いんだ.トランプ関税によって,いままさにサプライチェーンと輸出市場を活用するアメリカ製造業の能力が破壊されていっている.トランプ
経済記者も、他のどんな書き手と同じように、完璧な存在じゃない。昔の人は、報道記事は全て完全に真実だと思っていたかもしれないし、今もそう思ってる人がいるかもいれない。でも、報道というのは人の営みで、人は間違いを犯す。真実を知りたいなら、複数の情報源を読んで、自分の読んだものに懐疑的になる必要がある。それでも、間違いは紛れ込んでしまう。 なので、この記事の目的は、僕が衒学的で知ったかぶりをすることでも、経済マスコミの書き手を十把一絡げにして侮辱することでも、特定のライターを非難するわけでもない。でも、ほとんどの経済記者があまりに一貫して繰り返してる単純で初歩的な間違いがある。そして、他のほとんどの間違いと違って、多分だけどアメリカの経済政策に深刻な悪影響を及ぼしている。なので、僕としては、声高になって、少しばかり不満を表明せざるをえないと感じている。 経済記者たちが犯している間違いというのは、
貿易赤字にはたしかに問題もあるけれど,トランプが思っているのとはちがう 合理的に議論したり経済理論を解説したりしてトランプ関税を打ち負かせるとは思わない.いや,こういう手合いとどう議論したらいい? キミには新しい iPad なんて必要ない キミには新しいスマホなんて必要ない キミには新しいゲーム機なんて必要ない キミはそういうのを欲しがっているんだ 「必要である」と「欲しい」とは大違いだ 関税について泣き言を言っている人たちを見かけたら,ぜひ質問してやってほしい.この関税で自分の生活がなにか変わったのかい,って ぼくは,しぶしぶ受け入れることにした――「広範囲にわたる関税はダメだ」と幅広いアメリカ人が気づくには,我が身で痛い目をみるしかない.つまり,熱々ストーブに触って火傷をしてみないとわからないんだ.さいわい,遠からずアメリカ人は火傷しそうだ: Source: Gallup こんな話をし
悲しいけど,警告されてたことなんだよね. 関税でアメリカ経済が下水に流されようかというときにすら,トランプ政権は他にも愚かなことをやっている.関税ほどハデに愚かではないけれど,もっと長期的にもっと暗い帰結をもたらしうる愚行だ.先日,トランプ政権はキルマル・アブレゴ・ガルシアというエルサルバドル人男性を無実の罪で逮捕して,エルサルバドルの刑務所に送り込んだ.犯罪の告発もなく裁判もなしで,だ.あとになって,政権はガルシアの逮捕が過誤だったと認めた――ガルシアは強制送還からの保護が裁判所によって与えられたけれど,トランプの配下たちはそれでも彼をふんづかまえた. それから数日後,トランプ政権がアブレゴ・ガルシアがアメリカに戻るのを「促進する」ようにとの下級裁判所の命令を,最高裁判所は全員一致で支持した.当初,トランプは最高裁判所の判断を尊重すると発言していた.ところが今日になって,トランプは方針を
誰かが狂った王を止めないといけない. とんでもなく高いトランプ関税がしばらく撤回されそうもないと投資家たちが認識して,アメリカの株式市場が急落を続けている: アメリカ株式先物は日曜日の夕方に下落した.ドナルド・トランプ大統領が主要な貿易相手国のほぼすべてに対して驚異的なまでに高い関税率を発表した後に2日続けて史上最大規模の株式市場暴落後も,ホワイトハウスは強気な姿勢を崩していない.(…)ダウ工業株30種平均先物は,日曜の夕方に 1,531ポイント(4%)下落し,続いて月曜にも厳しい取り引きが続く見込み.S&P500先物は 4%下落.ナスダック100先物は 4%の損失となった. S&P 500先物は,3回の取り引きセッションで 15% も下落した.もはや「暴落」と行っても言い過ぎじゃない.たった数日で,ドナルド・トランプの政策はすでに 5兆ドル以上もアメリカ人の富を雲散霧消させてみせた.月曜
[Noah Smith, “Imports do not subtract from GDP,” Noahpinion, April 29, 2022] 経済ジャーナリズムでいちばんありがちなまちがい 今朝,『ニューヨークタイムズ』を読んでたら,こんな話が目にとまった――2022年の第1四半期にアメリカの GDP が減少したのは,輸入が増えたせいなんだって: 他方で,ますます膨れ上がった貿易赤字によって,第1四半期に GDP 成長が3パーセントポイント以上も下がった.国外で生産されているので,輸入は国内総生産 (GDP) から差し引かれる.そして,アメリカの消費者たちが支出をしつづけるなか,この数ヶ月で,輸入は急増している.だが,GDP に加算される輸出は伸び悩んでいる.ひとつには,海外での経済成長が低調なためだ.(太字強調はノア・スミスによるもの) 太字にした箇所は,正しくない.というか
MSペイントでノア・スミスが作成したファンアート クルーグマンは偉大な経済学者だけど,それだけじゃなく,経済の語り方の変革者でもある ドキッとした人も安心してほしい.ポール・クルーグマンは存命だよ.ただ,25年近く続けた『ニューヨークタイムズ』コラムニストは引退するそうだ.きっと,引退を惜しむ声はたくさん上がるだろうね.(ちなみに,その後は Substack に移るらしい.だから,きっとたくさんブログ活動をしてくれるはずと期待しておこう!) 大学院2年目の頃に,友人がこう言ってきた.「経済学ブログを始めるべきだよ.そしたら,次のポール・クルーグマンになれるかもよ.」 彼女に,ぼくはこう返した.「いや,ブログはやってみようと思ってるけどさ,クルーグマンの後に続くのなんてどうみてもムリでしょ.」 それはいまも変わらない.というか,クルーグマンのようにやれる人が一人でもいるのか,ぼくにはわからな
この数十年、自由貿易に主に異議申し立てを行ってきたのは、組織化された労働者と政治的左派だった(ここやここで私も自由貿易に意義を申し立てている)。年季の入った中道左派的な政治観を持った人なら、シアトル、ワシントンD.C.、モントリオール等で行われたIMFや世界貿易機関(WTO)に反対する集会に参加したり、参加した友人がいるに違いない。 ドナルド・トランプ大統領が今、反グローバリズムを掲げていることで、左派の自由貿易批判者は厄介な立場に立たされている。全米自動車労組の熱血委員長ショーン・フェインのように、誰が話したかは関係ないとして、トランプのメッセージを受け入れている人もいる。関税によって良質の製造業系雇用が戻って来るなら、誰が提案しようと、労働者とその連帯者は賛成すべきではないか? と。 アメリカでの製造業の再建は、正当な目標たりえるかもしれない。そして、フェインのような人が言うように、原
現在トランプの行っている通商戦略は、アメリカの影響力と技術力を損ない、同盟国やパートナーとの分断を招き、なによりも中国が世界の覇権国家となる道を開くものだ。私は依然として、この背景に合理的な意図はないと考えている。昔からの格言にこういうものがある、「悪意を見出すな。原因は『愚かさ』にあるのだから」。トランプ政権による関税政策がその場しのぎで、土壇場かつ断続的に実行され、なおかつ議会が大統領の関税権限を撤回するよう働きかけていないことは、問題の原因が「愚かさ」にあることを物語っている。 とはいえ、トランプ政権やMAGA運動の内部には、中国の台頭を抑制するような貿易戦略を打ち出すことをトランプに期待している者も存在する。大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長スティーブン・ミランは、「中国は世界の懸念をよそに輸出主導の重商主義モデルに固執している」と述べている。そして、財務長官のスコット・ベッセ
その昔,2002年に起きた一件をいまも覚えている.当時のブッシュ政権が,アメリカ市民ホセ・パディーヤを「敵戦闘員」だと言い放ち,裁判を受ける法的権利を奪った.あれから23年たった今,トランプ政権はあれよりさらに酷いアメリカ市民の基本的自由の侵害に手を染めている.トランプは,大勢のベネズエラ系市民を拘束して苛酷なエルサルバドル刑務所に強制的に送り込んだ.トレン・デ・アラグアというギャングの構成員だからという理由だけれど,その根拠は「タトゥーを彫っているから」でしかない.ある事例では,メイクアップ・アーティストのアンドリー・ロメロが,自分の父母の名前の上に王冠のタトゥーを彫っているからというだけで,強制移送された(政権は,王冠模様をギャングの象徴と考えたんだ). ところが,これすら最悪の事例じゃないときてる.トランプ政権は,アブレゴ・ガルシアという男性を完全な手違いでエルサルバドルに強制移送し
この二極化した議論において、冷徹な事実は不幸にも置き去りになっている。〔…〕このエントリでは、私が移民研究に従事する中でよく出会う8つの神話を取り上げよう。 移民の議論になると、右派の側でも左派の側でも、たくさんの不正確で誤解に基づいた主張が飛び交う。この記事では、実証研究が実際に何を示しているのかを紹介しよう。 移民は2016年の最重要テーマだったが、2017年も重要なテーマであり続けるだろう。だが移民というのは、議論が加熱していると同時にきちんと理解されていないテーマでもある。いわゆるヨーロッパの「難民危機」、移民でパンパンに詰まったボートが地中海岸に到来するというよくあるイメージは、移民はコントロール不可能な脅威であり、大量の移民流入を制限するにはラディカルな政策が必要だ、という印象を与える。大量移民の恐怖は、ヨーロッパ中で極右のナショナリスト政党の台頭を促し、アメリカ大統領選ではド
Screen cap from a video by Noah Smith, Yoyogi Park, 2023 そして,キミの国もきっとそうするだろう理由 日本論に関するノアの第一法則「アメリカでなにかの論議がしばらく続くと,そのうち誰かが自説の論拠に日本を持ち出してくる」 日本論に関するノアの第二法則「そういう論拠の8割は間違っている」 どちらの法則も,高技能移民の受け入れをめぐる最近の論戦で大いに発動してる.テック系右派は,(正しく)こう指摘した――「技能のある移民の流入は,アメリカがハイテク産業で競争優位を維持するのに欠かせない.」 他方,移民排斥論をとる右派のなかには,こんな主張を試みる人たちもいた――「インドからの移民流入を禁止してもアメリカはいまと変わらずうまくやっていける.STEM系従業員の訓練にもっとリソースを振り向ければいい.」 これが馬鹿げた言い分なのが明らかになると
ヨーロッパ時間月曜朝4時、我々はアメリカの集団的脳出血としか言いようのない、決して夢などではない、破壊的な金融的帰結を目撃した。 はっきりさせておきたいのは、これはマクロ経済のファンダメンタルズや外的ショックによって引き起こされた危機などではないということだ。人為的な災害である。そして張本人はドナルド・J・トランプである。 アメリカ時間日曜夜、トランプは「株価の下落は望まないが、薬を飲まなければならない時もある」と宣言し、燃え盛る炎にガソリンを注ぎ込んだ。つまり、トランプは、経済を破壊する貿易戦争政策に頑なにしがみついている。 市場の反応は、即座かつ苛烈なものだった。 アジアの株式市場は完全なメルトダウンモードに突入し、日本市場は一夜にして8%下落し、香港株は10%急落した。欧米市場が今日開けば、世界的な売り込みの発生を確実に見ることができるだろう。 しかし、これはもはや株式市場だけの問題
DEIの支持者は、市民全体が受け入れられると理に適った形で期待できるような、より強力な言説体系を携えて再起する必要がある。 トランプ政権は現在、DEI(Diversity, Equity, and Inclusion: 多様性、公平性、包摂)プログラムを連邦政府機構から追い出そうとしている。これを受け、DEIとは実のところなんであるか(あったか)を巡って、大きな混乱が存在することが明らかとなった。こうした混乱は、DEIの提唱者たちが自身の主張を、1960年代の公民権運動を突き動かした思想やアイデアの直接の延長線上にあると論じがちなために生じている部分がある。実際には、DEIの主張の多くは公民権運動のそれよりはるかに論争的だ。目下生じている本格的な攻撃に抵抗できる望みがあるとすれば、より擁護しやすい言説体系の構築を視野に入れつつ、DEIの主張を再検討することから始めるべきだろう。 大規模な官
ドナルド・トランプ大統領は、「解放の日」と銘打ち、アメリカの輸出に対する貿易相手国の関税、非関税障壁、通貨障壁を相殺するめに慎重に調整されたとする輸入関税の導入を宣言した。しかし米国通商代表部(USTR)の公表した計算の詳細によると、この関税の実際の効果は、アメリカに最大の利益をもたらす貿易分野を最も的確に縮小することになるだろうことを示している。関税による貿易縮小の結果、アメリカの消費者と企業は直撃を被るだろう。株式市場が急落するのも当然だ。 この関税計画は、そもそも国家の貿易の根源的な仕組みについて基礎的な誤解を示している。国家(アメリカ)は貿易を行うことで、一部の貿易相手国との間に貿易赤字(2国間赤字)を計上し、他の国との間で貿易黒字(2国間黒字)を計上することになる。この仕組みは、比較優位の作用を反映したものである。例えば、アメリカはアルミニウムを最も効率的に生産できる国からアルミ
今週はメディアに登場する機会が2回ほどあった。1つ目の記事はポリシー・オプション誌に寄稿した記事で、〔カナダでの〕選挙改革に反対するものだ。2つ目はTVO(TVオンタリオ)の「アジェンダ(The Agenda)」という番組でのドナルド・トランプに関するパネル・ディスカッションだ。実は両者は繋がっているのだが、テレビ番組ではそのことを説明するのに十分な時間がなかった。というわけで、この記事で説明しよう。 まず選挙改革について。私が選挙改革に関する議論で常に指摘しようと努めているのは、次のような論点だ(理解が難しく誤解は避けられないのだが)。「民主的」と広く認められるような投票制度はいくつかあり、その全てが長所と短所を持っているが、他の候補と比べ本質的により民主的であり公正である投票制度などというものは存在しない。研究者のほとんどが、種々の投票制度のメリットに関する議論になると、非常にプラグマ
あなたは特定の道徳的価値にコミットしており、その価値に資するような特定の政策が実現してほしいと考えているとしよう。さらに、その道徳的価値には異論を持つ人もいるため、そうした政策が実現すれば反発が生じるとする。最後に、そうした政策を実現するには様々なやり方があり、自身の価値観に照らせばそれらの手段に対して良し悪しをつけられるが、自身のコミットする価値に資する手段ほど、反対派からのバックラッシュを生む可能性が高く、そのため政策が実行されなくなる可能性が高まる、としよう。ここで興味深い問題は、そうした政策目的を達成する上で、どの程度の妥協をする心構えを持っておくべきか、である。純粋に自分が最良と考えるやり方を貫くべきだろうか? 自身の立場を穏健化させて、バックラッシュのリスクを避けるべきだろうか? これは全く思弁的な問題というわけでもない。多くの人が気づいているように、アメリカのリベラルや進歩派
中華帝国はメリトクラシー(実力主義)だった。これは、長年語られてきた物語であり、何世代にもわたって中国という国家の理解を形作ってきた。中国では、千年以上にわたって、官吏を目指す者は、過酷な何段階もの試験(科挙)を受け、成績上位者は王朝役人の地位を手に入れた。生まれによって人の将来が決まっていた世界では、この中華帝国のシステムは、革命的で近代的に見えた。血統ではなく、才能によって統治が行われていたからだ。 これは深い示唆を持っていた。ヨーロッパの君主は貴族家系や議会と争うことが多かったが、中華帝国では、家柄ではなく教育によって選別された階級――専門的な官僚階級に権力が集中していた。このシステムによって、中国は世襲エリートや、代議機関を必要とせずに、強力で中央集権的な国家を築くことができたと学者らは論じてきた。 この思想は、中国を超えて広く共鳴された。ヴォルテールのような啓蒙思想家は、中国のメ
大学は新聞の衰退から何か教訓を学べるだろうか? 最初に答えを言ってしまうと、学ぶべき重要な教訓があると私は考えている。それは、研究大学の基本的なビジネスモデルが、伝統的な新聞のビジネスモデルと似通っているからだ。どちらのビジネスモデルも、公共財と私的財の2つの財を集めて、「抱き合わせ(bundle)」にして売ることで成り立っている。このビジネスモデルは、消費者が一方〔公共財の方〕を買わずに他方〔私的財の方〕を得る方法を見つけたとき、終わりを迎える。インターネットは新聞の各「欄」を分解することで、伝統的な新聞を殺した。大学にとって問題は、「抱き合わせ」をこれまで通り維持できるのか、それとも2つの財は繋がりを解かれる運命にあるのか、である。 これがどういうことかを説明してみたい。ある種の「財」は便益が極度に分散しており、消費者に料金を支払わせるのが難しい。天気予報が良い例だ。正確な天気予報を行
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