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ノーベル賞
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
「生成AIと著作権」に関する議論は先日のエントリーでも取り上げたばかりではあるのだが*1、今日の朝刊の「経済教室」に、早稲田大学の上野達弘教授による「著作権法の権利制限規定を”諸悪の根源”であるかの如く批判する近時の見解」を鮮やかなまでに斬る論稿が掲載されているのを拝見し、これぞ真打ち・・・と大いに感服したので、ここで紹介させていただければと思っている。 あえて自分が解説するまでもなく、実に美しく分かりやすい言葉で書かれている論稿ということもあり、本エントリーのほとんどは「引用」に依拠することとなる点は、ご容赦いただければ幸いである。 経済教室「AI規制の論点(上)/「生成」と「学習」区別し対応を」*2 上野教授は、「クリエイターやメディア」が著作権法の「情報解析規定」*3、に懸念を示している、という状況を紹介した上で、情報解析規定の意義について以下のように説明する。 「情報解析規定が対象
今週が学会ウィークだから・・・というわけではないが、再び著作権関係のネタを。 単なる偶然だとは思うが、「応用美術」の著作権が争われた事件の判決は春に出ることが多い。 それまでの常識を覆したかに思われた「TRIPP TRAPP」の知財高裁判決が出たのは8年前の4月*1。 だがその後も世の中は変わりそうで変わらず、その6年後の4月には、かなり微妙な事例だった「タコ滑り台」をめぐる著作権侵害訴訟でも請求を棄却する判決が出た*2。 そしてさらにその2年後の2023年4月、「応用美術」をめぐって、新たに「大阪発」のちょっと物議を醸しそうな判決が出されている。 強引にタイトルを付けるなら”布団の薔薇事件”とでも言ってよさそうなこの事件の判決を以下ご紹介することにしたい。 大阪地判令和5年4月27日(令和4年(ネ)745号)*3 控訴人(一審原告):藤田株式会社 被控訴人(一審被告):株式会社ダイユーエ
判決自体は昨年末に出ていたようだが、地裁判決の時とは違って判決時点での報道はほとんどなく、しかも、最高裁のウェブサイトにアップされるのが遅れたためか、今週くらいになってようやく話題になった「ルブタンのレッドソール」の不正競争行為差止請求事件。 ルブタン側が控訴しても結論に変わりなし、というところだけを見て、まぁ仕方ないだろうな、と思いながら週末ようやく判決文に接することができたのだが、それを見ての感想は、地裁判決の時とは180度異なるものだった。 請求棄却であることに変わりはなく、「ルブタン側の実質勝訴」と言ってしまうとさすがに言いすぎ、という内容でもあるのだが、思わず「最初からこの判断で良かったのに・・・」と思ってしまった知財高裁判決を、以下簡単に取り上げておくことにしたい。 知財高判令和4年12月26日(令和4年(ネ)第10051号)(第4部・菅野雅之裁判長)*1 控訴人:クリスチャン
それは思いがけないサプライズだった。 「音楽教室のレッスンでの楽曲演奏が、日本音楽著作権協会(JASRAC)による著作権使用料の徴収対象になるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は24日、JASRAC側の上告を棄却した。教師の演奏に対する著作権使用料の徴収を認める一方、生徒の演奏は徴収対象にならないとした二審・知財高裁判決が確定した。」(日本経済新聞2022年10月25日付朝刊・第43面、強調筆者) 9月に弁論まで開かれた上告審。 一審では原告だった音楽教室側の上告受理申立てが早々に退けられた、という情報は事前に耳にしていたし、最高裁が、JASRAC側が争っていた「生徒の演奏の演奏主体」の論点だけを拾い、しかも、(通常は高裁判決を逆転させる場合に行われることが多い)弁論までわざわざ開いた、ということになれば、「音楽教室側の全面敗訴」という結果を予測するのも当然
事柄としては5月に遡る話だが、先月に判決が公表され、それをしばらく経ってから読んでみたらいろいろと示唆に富む争点も潜んでいた、ということで、住宅地図の著作権侵害をめぐる事件の判決を取り上げてみる。 www.zenrin.co.jp リリース全文はhttps://www.zenrin.co.jp/information/public/pdf/220530.pdf 「地図」といえば、著作物の中でも広く便利使いされやすいコンテンツ、ということもあって、どうしても無断使用、不正使用の温床になりやすい。 自分がかつて作っていた著作権に関する「コンプライアンスチェックリスト」の中にも、地図に関する項目は必ず入れるようにしていたし、にもかかわらず、あれれ・・・と言いたくなるような事象は定期的に起きていたと記憶している。 もっとも、「著作物」として著作権法で例示されているもの(法第10条第1項第6号)であ
「AI契約書審査サービス」と弁護士法72条の関係をめぐる法務省の回答が、ハチの巣を突いたような大騒動をもたらしたのは今月の初めのことだった。 k-houmu-sensi2005.hatenablog.com その後、「弁護士法72条と抵触しない形でのAIを利用した契約業務支援サービス構築が可能であること」を強調した松尾剛行弁護士の論稿*1が公表されたことなどもあって事態は沈静化しつつあるが、法務界隈では古くて新しい”脅威”である弁護士法72条本文のインパクトを改めて思い知らさせる事象だったことは間違いない。 そして、あの回答が掲載された法務省の「弁護士法(その他)」のページに再び「産業競争力強化法第7条2項の規定に基づく回答について」として、令和4年6月24日付の、新しい2件の回答が掲載されたのだが、そのうちの1件*2ときたら・・・。 3.新事業活動に係る事業の概要 ⑴ 新事業活動等を行う
自分はファッションに疎い。だから、”ファッション・ロー”などと銘打った話ができる実務家や学者の先生方に対しては、ただただ畏敬の念しかない*1。 だが、そんな自分も「ルブタン」のヒールの靴底が赤いことは知っている。 別に国内外のドラマで主人公が履いてるのを見たとかそんな洒落た話ではなく、知っている理由は唯一つ、あの忌まわしき色彩商標制度の導入時に↓のような資料を散々見ていたからに他ならない。 https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_wg/document/05-shiryou/07.pdf もちろん、それは自分だけの話ではなく、あの2010年代の真ん中くらいの時代に商標の世界にどっぷりはまっていた者であれば、まさに「新しいタイプの商標」を象徴する時代の申し子、レッドソールこそが、第25類で最
今朝、仕事を始めるその前に、と一瞬目をやったタブレットの画面に表示された1通のメールがあった。 「2022年4月6日よりEEA圏およびイギリスからYahoo! JAPANはご利用いただけなくなります」 というインパクトのある標題に思わず釘付け。 続く本文には、標題と同じ告知のリピートに続き、 Yahoo! JAPANは欧州経済領域(EEA)およびイギリスのお客様に継続的なサービス利用環境を提供することが困難であるとの判断から、以下の「2022年4月6日 (水)以降もご利用可能なサービス」に記載のサービスを除き、2022年4月6日 (水)以降EEAおよびイギリスからご利用いただけなくなります。 EEAおよびイギリスからのご利用が多いお客様におきましては、Yahoo!プレミアムなど月額利用料金が自動更新されるサービスをご利用の場合は解約の手続きをお願いいたします。 また、有料サービスをご利用の
”劇場型”の株主総会で株主提案を退けたのもつかの間、「議決権集計問題」に端を発した疑惑の火が「圧力問題」で燃え上がり、臨時株主総会で株主提案が一部可決、さらにそれに基づく会社法316条2項の調査者報告で明らかにされた事実を契機に定時株主総会を経てボードメンバーがガラリと変わり、業績は決して悪くないにもかかわらず、今まさに”ガバナンス発”で創業以来の危機を迎えつつあるのが、東芝、という会社である。 そして、「3分割」という衝撃的な事前報道が、会社側の会見で現実になったその日、まだ終わっていなかった「2020年7月31日開催の第181期定時株主総会」をめぐる「総括」ともいえる報告書が公表された*1。 報告書を作成したのは、今年の夏、調査者報告を受けて設置されたガバナンス強化委員会*2。 設置時のプレスで「圧力問題」に関する委嘱がなされた、と報じられた時は「おい、またやるのか!」的な反応も多かっ
古くから「タダほど高いものはない」ということはよく言われることではあるのだが、そんな格言にさらに一事例を積み重ねるような判決が、大阪地裁で出されている。 舞台は紅葉も今が見ごろであろう、京都の山深くの貴船神社。 その写真の利用許諾をめぐって起きた事件である。 大阪地判令和3年10月28日(令和2年(ワ)9699号)*1 原告:P1 被告:貴船神社 原告はプロの写真家、被告は貴船神社の祭祀を行うことなどを目的とする宗教法人だが、争いのないものとして整理された前提事実は、以下のとおりである。 ■ 原告は,平成27年ころから,貴船神社の社殿,風景,行事等を撮影した本件写真を被告に提供し,被告は,本件写真を,ウェブサイト,SNS,動画配信サイト等に使用し,被告の広報宣伝資料として利用した。 ■ 原告は,令和元年9月13日付けメールにより,被告に対し,同月末日までに,ウェブサイト等から,本件写真を
「ZOOM」というオンライン会議ツールの名前を初めて聞いたのは、「COVID-19」の脅威が囁かれ始めてから間もない頃だっただろうか。 自分も早々に使い始めたのだが、リンク用のURLアドレスをクリックするだけで参加できる手軽さに始まり、家庭用のルーターでも十分なくらいのネットワーク負荷の少なさ、ついこの前まで使っていた和製の同種サービスやSkypeなどとは比べ物にならないくらいの画質・音質の良さ、そして遊び心も生かされる仮想背景等、あらゆるものが感動的なまでに画期的だった。 「セキュリティ」の問題がとやかく言われたこともあったし、”後発”のマイクロソフトやGoogleが、バージョンアップのたびに擦り寄ったような機能をくっ付けてきたこともあって、1年以上経った今では、「オンライン会議はZOOM一択」という状況ではさすがになくなってきているものの、それでもオンラインで打合せをやる時にはとりあえ
今日は何もなければ、ゆるゆると「緊急事態宣言解除」の話でも書こうかと思っていたのだが、夕方に流れたニュースで事態は一変した。 「日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から著作権使用料を徴収するのは不当として、音楽教室を運営する約250事業者がJASRACに徴収権限がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、知財高裁(菅野雅之裁判長)は18日、一審・東京地裁判決の一部を変更し、生徒の演奏について徴収権を認めなかった。教師の演奏は徴収権を認めた。」(日本経済新聞電子版2021年3月18日19時35分更新、強調筆者、以下同じ。) 昨年の2月に出された第一審判決を見た時は、随分とモヤモヤした気分になったし*1、その後出された評釈や、学者、実務家の研究会、シンポジウム等での発言の中にも、地裁判決に両手を挙げて賛成、というものはほとんど見かけなかった気がする*2。 もちろん、多くの方々が唱えた”
暦の上では3月、となると、そろそろざわつき始めるのが会社法界隈のならわし、というべきだろうか。 3月期決算会社が年度末に向けてラストスパートに入り、来るべき「6月」に向けて動き出す中、それなりのボリュームがある12月期決算会社は月末に一足早い株主総会シーズンを迎える。 そこから間断なく始まっていく「株主総会」というビッグイベントの季節。 1年前は、ちょうどこの頃から「新型コロナ」の脅威が目に見えて広まっていき、もっぱらその話題だけでシーズンが終わってしまったようなところもあった。 今も依然として首都圏は緊急事態宣言下だから、リスクが消えたというわけでは全くないのだが、6月、9月、12月、といくつもの波を超えてある程度「感染症対策オペレーション」も定着しつつある状況*1だけに、「初めてのバーチャル総会」に踏み切るような会社を除けば、昨年ほど冷や冷やする経験はしなくても済む可能性は高い。 だが
10年くらい前にはもう予感があって、4,5年前の時点で個人的には「確信」に近い思いがあったのだが、こうやってそれが現実の世界の出来事になると、どうにもこうにもため息しか出てこない。 「世界知的所有権機関(WIPO)は2日、2020年の特許の国際出願件数を発表した。中国が2年連続の首位で、韓国もドイツを抜き4位に浮上した。新型コロナウイルスの感染拡大でIT(情報技術)サービスの需要が拡大し、アジア勢を中心に技術革新が進んでいる。」 「中国は16%増の6万8720件と成長が加速している。習近平(シー・ジンピン)指導部はハイテク産業育成策「中国製造2025」で企業に多額の補助金を投じ、知財強国としての地位確立を急ぐ。」 「一方、2位の米国(3%増の5万9230件)、3位の日本(4%減の5万520件)はなお高水準を維持しているものの、頭打ち感は否めない。」 (日本経済新聞2021年3月3日付朝刊・
ここ数日、揉めに揉め倒した感がある東京五輪組織委員会会長の”失言”問題。 連日繰り返される報道と外野の声を見ながら蘇ったのはかれこれもう20年も昔の記憶で、どんなに頑張って文脈を補おうとしてもフォローできないような発言を公の場でしてしまう側も側なら、それを切り取って執拗に報道するメディアもメディア・・・ということで、そこにあったのは非常に既視感のある光景だったわけだが、今回は発言のテーマ、発言者の地位、そしてトップを務める組織が置かれている環境等々、全てが最悪の方に向かっていくことになってしまった。 何といっても、「開催できるかどうか」が最大の焦点になって世界中がざわつき始めている、というのが「東京五輪」を取り巻く今のストレートな状況。さらに、何といっても五輪は世界最大のスポーツイベントだから、それに関連して発信される情報の欧米での伝播度も桁違い。 当の日本国内では、「五輪組織委」と言って
コンセプトからして購買意欲をそそるに十分で、告知が出るなり早々に予約して取り寄せた書籍がこの週末に届いた。 「入門書」ということで、読み手に優しい文章と、時にキュートさすら感じさせる挿絵の図解、そして細かく区切られたテーマごとに完結する記述のまとまりの良さと、その合間に添えられたコラムのおかげで、集中力をそがれることなく一気に読み切ることができた。 そして、読み終えた後の感想は、といえば、(実にベタだが)「これは凄い」の一言に尽きる。 手にとるようにわかる会社法入門 作者:川井 信之発売日: 2021/02/03メディア: 単行本(ソフトカバー) 「会社法の本」といえば、基本書*1はもちろん、「入門書」とうたわれていても分厚くなるのが常で、しかも用語が錯綜、シンプルに書けば書くほど記述が無味乾燥なものになりがち・・・ということで、専門家が書かれた本の中で通読できるようなものはおそらくほとん
ここに来てまさかの「緊急事態宣言再び」のような状況になっていて、年も変わり、せっかく、さぁ新しい気持ちで仕切り直してこれから!と思っていた方々の中には、げんなりしている方も多いのではなかろうか。 だから言わんこっちゃない・・・などとまでいうつもりはないのだが、昨年終盤の官邸の動きの悪さを見ていると、これもさもありなん、という感じで、年末の間に「大人数宴会の禁止」とか「帰省自粛」をもう少し強いトーンで呼びかけておけば良かったものを、いろんなところに忖度して煮え切らないスタンスのままここまで引っ張ってきてしまったものだから、とうとう「緊急事態宣言」という話になり、一律の夜間外出自粛要請→外出そのものの自粛要請という流れの中で、どう見たって感染拡大とは直接関係ない個人客向けの飲食店とか小売店までが再び犠牲になりそうな気配である。 で、新型コロナそのものの話は、また日を改めて書くとして、休み明け以
去年までと比べると比較的静かに進んでいる今年の著作権法改正論議。 だが、世の中に与える影響は決して小さくない権利制限規定の見直しが、今、急スピードで進んでいる。 今朝の日経朝刊に掲載された記事はこちら。 「文化審議会の作業部会は11日までに、図書館が書籍や資料の電子データを利用者にメールで送れるようにする著作権法改正の必要性を盛り込んだ報告書をまとめた。文化庁は2021年の通常国会への改正案提出をめざす。施行されれば、スマートフォンやパソコンでの閲覧が可能となる。」 「報告書は、市場に流通する書籍なども対象となることから、著作権者や出版社の利益を守るため、自治体など図書館の設置者が「補償金」を支払うべきだとした。金額は「逸失利益を補填できるだけの水準」とした。」 (日本経済新聞2020年11月12日付朝刊・第42面、強調筆者、以下同じ。) この記事、決して間違いではないのだが、「作業部会」
7月から始まっていた「Go To トラベル」に続き、ここに来て話題になる機会が増えている「Go To Eat」、さらに「商店街」やら「イベント」やら、何でも「Go To…」付けて盛り上げろ、というのが現在のお上の方針になっているようである。 だが、このキャンペーンが盛り上がれば盛り上がるほど湧き上がるのは、この先への懸念である。 当然ながら、キャンペーン反対の急先鋒だった「感染拡大が・・・」という類の意見も全く無視できるようなものではないし、この後の感染判明者数の数字によってはキャンペーンを止めるくらいのインパクトが生じても不思議ではないのだが、現時点ではそこまでの脅威にはなっていない、ということで、今日のところは脇に置く。 「Go To Eat」等で指摘されていたような”せこい裏技”を非難する声も一部で上がっているが、これも急ごしらえの制度であればどうしても避けられないもので、ルールの枠
創業から約半世紀の名門家具メーカー、大塚家具が”親子喧嘩”で有名になったのは今から遡ること5年ちょっと前の話。 社長を一度退いた後に返り咲き、定時株主総会で自らの父親と対峙して一躍時の人となったのが、大塚久美子社長だった。 ここ数年は、有名企業でも株主総会を舞台に取締役の選任、さらには実質的な経営権の争奪が繰り広げられるケースが目立つようになっているが*1、2015年当時はまだまだ珍しい話だったし、この会社に関しては、まさに親子世代の経営や店づくりに対する価値観のぶつかり合いが正面から取り上げられていたこともあって、当時はかなり気にしながら見ていたものだった。 k-houmu-sensi2005.hatenablog.com 結果的には、この時の”闘争”は、社長側勝利で幕を下ろし、会長だった父親は会社を離れて「匠大塚」を創業。あくまで高級路線にこだわり続ける姿勢を見せた。 一方、名門・大塚
前々から注目されていた旧労働契約法20条、労働契約の期間の有無により労働条件に不合理な相違を設けることを禁じる*1、という規律に違反するかどうかが争点となった訴訟について、今週、相次いで最高裁判決が出された。 多くのメディアも、それに接して情報を入手した方々も、上告審判決の結論とそこに書かれていることだけに飛びついたのだろう。 13日、15日と判決が出るたびに、一喜一憂という感のある反応を見かけることも多かった。 「非正規従業員に賞与や退職金が支払われなかったことの是非が争われた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は13日、不支給を「不合理とまでは評価できない」との判断を示した。いずれも二審の高裁判決は一定額を支払うべきだとしていた。原告側の逆転敗訴が確定した。」 「最高裁は他方で「格差の状況によっては不合理との判断があり得る」とも指摘した。今回の司法判断が、政府が進める「同一労働同
月末ということで届いた法律雑誌のうち、法律時報の最新号(2020年10月号、Vol.92. No.11)に目を通していたら、思わぬところに切れ味鋭い評釈が掲載されていることに気づいた。 元々この号は、今、まさに研究会での議論が進められている動産・債権譲渡担保法制の見直しにかかる特集がかなり充実していて*1、本来ならこちらも取り上げておかねばならないところではあるのだが、まずは真っ先に冒頭で紹介した評釈のインパクトを伝えなくては・・・ということで、今回はこれに絞ってエントリーを上げることとしたい。 法律時報 2020年10月号 通巻 1156号 動産・債権等を目的とする担保――立法に向けての課題 発売日: 2020/09/26メディア: 雑誌 田村善之「寛容的利用が違法とされた不幸な経緯に関する一考察-最三小判令和2年7月21日(リツイート事件)」*2 リツイート事件といえば、今年の夏、関係
ここ数年、様々な観点から批判に晒されているコンビニ業界のフランチャイズ契約モデルだが、遂にここまで来たか・・・という感のある記事が、今朝の日経紙1面に掲載された。 「公正取引委員会は2日、コンビニエンスストア本部がフランチャイズチェーン(略)加盟店に24時間営業などを強制すれば独占禁止法違反になりうるとの見解を示した。FC店に対する本部の優越的地位の乱用をけん制する姿勢を明確に打ち出した。人手不足と人口減少に伴う市場縮小で、コンビニの成長を支えてきた日本のFC経営モデルが転換期を迎えている。」(日本経済新聞2020年9月3日付朝刊・第1面、強調筆者) 「値引き販売」の不当制限をめぐって公正取引委員会がセブンーイレブン・ジャパンに排除措置命令を出したのは、今から10年以上も前のことになる。 当時、いやそれ以前から、FC加盟店を運営する一部のオーナーたちの悲痛な声がメディアに登場することは多か
ちょうど西の方の電力会社のコンプライアンス委員会が調査報告書を出した、というニュースが出ていて、そこでお名前をお見掛けしたこともあり*1、少し温めていた「この夏の一冊」を取り上げてみたい。 既に多くの方がSNS等で取り上げており、好意的な感想も目立つ中村直人弁護士の「講義録」である。 弁護士になった「その先」のこと。 作者:中村 直人,山田 和彦発売日: 2020/07/24メディア: 単行本 この国で企業法務にかかわる者であれば、お名前を知らない者はいない、と言っても過言ではない唯一無二の存在、それでいて偉ぶられるようなところは全くなく、常にクライアント・ファーストの姿勢を貫かれ、どんな難しい問いかけにも鋭い切れ味で簡潔明瞭な解を示しつつ、受け手にとっては優しいボールを投げ返していただける*2。 当然ながら法務業界には、至るところに中村弁護士のファンがいるし自分も全く例外ではない。さらに
今年もめぐって来た終戦記念日。 自分はもちろん「戦後世代」ではあるのだが、物心ついた時はまだ「戦後40年」になるかならないかだったから、「終戦75年」というフレーズが繰り返し出てくるのを聞くと、何とも言えない気持ちになる。 成人した頃は、「戦争を知らない若い世代」の代表格であるかのように取り上げられてきた我々も、もはや”古い側”に属するようになって久しいわけだが、それでも「戦後」世代の中で自分たちが徐々に古い世代の側に寄っていく、ということは、この国が再び戦争に巻き込まれていないことの証なわけで、今年はいつもにまして、そのことのありがたさを噛みしめていたところだった。 で、その話から持って行くのは些かこじつけ感もあるのだが、今年は1970年(昭和45年)の現行著作権法公布からちょうど50年*1、ということで、『論究ジュリスト』誌で「著作権法50年の歩みと展望」と銘打った大々的な特集が組まれ
今年の春以降、全体的に裁判所の動きが悪くなっている中で、知財業界にインパクトを与えるような判決もあまり出てこない状況が続いていたのだが、ここにきて強烈なインパクトのある判決が出た。しかも最高裁から・・・。 「ツイッターでリツイート(転載)された画像の一部が自動的に切り取られる設定を巡る訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(戸倉三郎裁判長)は21日、「著作者の氏名を表示する権利を侵害した」との判断を示した。ツイッター社側の上告を棄却し、メールアドレス開示を命じた二審・知財高裁判決が確定した。」(日本経済新聞2020年7月22日付朝刊・第36面、強調筆者、以下同じ。) 一般メディアの報道ではどうしても伝わりにくいのだが、本件はあくまで発信者情報開示請求事件。 そして、記事に出てくる権利侵害云々の話も、あくまでプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に
思わぬ形で「第2波」が来ている。 長く続いた「緊急事態宣言」の反動で、人が街にどっと繰り出すようになった6月初め頃の光景を見た時から、そこはかとない不安は抱いていたし、東京都下でじわじわと出現するようになってきていた感染判明者が「夜の街」のイメージでひとくくりにされていたことへの危惧もあったのだけれど、世界でも類を見ない日本特有の夏の気候は、手ごわいウイルスさえも鎮圧できるはず、と勝手に思い込んでいたところはあった。 ところが・・・である。 6月も末になって100人の壁を破った感染判明者の数字は、右肩上がりに伸び続け、遂に4月以来の600人台に突入。 未だに抜本的な接触回避策が取られていない今の状況に鑑みれば、早ければ今週中に、遅くても今月中には、4月の最高値を超え、1000人の壁も超える勢いで伸び続けることは確実な状況にある。 全体の「数」にばかり目を奪われがちだが、最近のプレスリリース
前々からくすぶっていた「ハンコの要否」をめぐる議論は、今年の春、多くの会社が好むと好まざると”リモートワーク”を強いられるような状況に陥って以来、ピークに達していた感があって、一部の事業者からの突き上げもあって、規制改革会議等でもかなりやり玉に挙げられるテーマとなっていた。 そんな中、6月19日付で突如として出された、内閣府、法務省、経済産業省の連名による「押印についてのQ&A」という文書。 http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf 日経新聞などは、さっそく、 「政府は19日、民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないとの見解を初めて示した。押印でなくてもメールの履歴などで契約を証明できると周知する。押印のための出社や対面で作業を減らし、テレワークを推進する狙いがある。」 「内閣府、法務省、経済産業省は同日、連名で押印に関する法解釈につ
先週の後半くらいから既定路線になっていた「全都道府県での緊急事態宣言解除」が、遂に現実のものとなり、これで、いよいよ経済活動本格再開!とばかりに、市場などはかなり浮足立ったムードになっているようなのだけど・・・。 現実には、「売り上げが立ちさえすれば何とかなる」という一部の個人経営のお店を除き、飲食店や嗜好系の小売店に関しては、「営業再開後」の方が、オペレーション上も収支のやりくりの上でも、遥かに難しい舵取りを強いられる事業者が多いのではないかと思う。 営業を再開すれば当然仕入れも発生するし、人件費も光熱費もかかる。どんなに売り上げが落ちていても、もう雇用調整助成金を足しにすることはできない上に、店を開けているからには家主に賃料減免を求めるのもたやすいことではなくなってくる。 元々のビジネスモデルの中でどの程度の粗利を確保できているかにもよるだろうが、すぐに客の入りが「元通り」になることは
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