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会えない時間に、顔がぼやける恋愛感情を抱く相手ができると、その人の顔を思い出せなくなる。ひとりの時間に目を閉じて思い浮かべようとすると、顔全体がぼんやりとかすんで細部をまったく思い浮かべられない。そんな経験に心当たりはないだろうか。 周囲の何人かに「そういうことはないか」と尋ねたことがあるが、共感してくれる人は一人もいなかった。自分だけなのだろうかと思いながら、その不思議さがずっと頭の片隅に残り続けた。 その経験を、正面から「説明」してみせる場面に、最近になって出会った。 見たものを忘れない男が、初めて写真を撮ったしげの秀一の漫画『MFゴースト』の15巻に、その場面はある。 (2026年8月現在、アニメ化されているのは11巻序盤まで。アニメのみを追っている方はネタバレにご注意いただきたい) 主人公の片桐夏向(かたぎり・かなた)は、日本人の父とイギリス人の母のあいだに生まれ、イギリスで育った
首相と内閣広報官で分かれたX投稿の扱い2026年7月23日の記者会見で、木原稔官房長官は、高市早苗首相のXへの投稿について、公文書管理法上の行政文書に当たらないとの認識を示した。個人のアカウントによる投稿であり、内閣官房が運用しているわけではないので行政文書ではない、という理由である。 高市首相は、国民の情報収集手段としての重要性が高まっているとしてXを多用している。7月20日には就任以来0時間から3時間の睡眠が常態化していると投稿し、波紋を広げた。この投稿が適切かどうかを問われると、木原官房長官は「政府としてコメントすることは差し控える」と述べ、評価には踏み込まなかった。 その翌日は、内閣広報官のX投稿が同じ論点で問われた。木原官房長官は7月24日の会見で、内閣官房の職員である佐伯耕三内閣広報官が運用するものは公文書だ、との認識を示した。 このアカウントは@PressSec_JPといい、
フラッシュメモリが記憶を手のひらに収めた以前、記憶媒体の変遷をたどった記事で、フラッシュメモリの登場について触れた。それ以前、パソコンの中で記憶を担っていたのはハードディスクだった。 ハードディスクは、円盤を回し、その上を読み書きヘッドが物理的に移動して目的の場所を探す。この物理的な移動があるぶん、機構としては時間がかかりやすい。 一方、フラッシュメモリには、動く部品がない。データは電気的に目的の場所へ直接読み書きされる。円盤の回転やヘッドの移動という物理的な動作がないぶん、機構としては速くなりやすい。可動部がないため、モーターやヘッドの機構を組み込む必要がなく小型化もしやすい。この速さと小ささによってスマートフォンが生まれ、インターネットへ常時接続できる環境をいつも身近に持ち歩けるようになった。そのことが、人が自分の頭に記憶する・外部記憶から情報を取り出すという行為のあり方を変えつつある
記憶と感情はどう結びついているのか人は日常のなかでさまざまな相手と出会い、その相手を記憶するとともに、過去の経験に基づいて、その相手を好きだと思ったり嫌いだと思ったりする。相手との経験が積み重なるにつれて、その相手への感情はアップデートされ、関係そのものも変わっていく。これまでの研究から、脳の海馬腹側CA1という領域が、他者についての記憶、すなわち社会性記憶を貯蔵するうえで重要な役割を果たすことは示されてきた。しかし、その相手への感情がどのように更新されるのか、それを担う神経回路の仕組みはよく分かっていなかった。 東京大学定量生命科学研究所の奥山輝大教授、王牧芸特任研究員(研究当時)、同大学大学院医学系研究科の須藤成俊大学院生による研究グループは、特定の相手に対する「嫌い」という感情がどのように形成されるのか、その脳内メカニズムをマウスの実験によって明らかにした。研究成果は日本時間2026
名前の由来から2009年、アメリカの超常現象研究家フィオナ・ブルーム(Fiona Broome)はあるイベントの会場で複数の参加者と、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)が「1980年代に獄中死した」という記憶を話し合っていた。ブルーム自身、ニュースでの死亡報道を見た記憶があり、追悼式典の映像まで思い出せたという。 ところがマンデラは存命だった。1990年に釈放されて以降、南アフリカ共和国初の黒人大統領(任期1994〜99年)を務め、2013年に肺感染症で亡くなっている。 ブルームはこの体験をウェブサイトに書き、同じ記憶を持つ人を募った。するとまったく面識のない人々から、同一の「記憶」が次々と寄せられた。彼女はこれをマンデラ効果(Mandela Effect、通称マンデラエフェクト)と命名し、他の類似事例にも同じ言葉を使いはじめた。互いに無関係な人々が同じ誤りを事実として「記
デジタル化は進むが、紙との併存は続く一般社団法人日本経営協会(Nippon Omni-Management Association:NOMA)は2026年6月18日、「地方自治体における公文書管理のデジタル化に関する調査2025」報告書を発表した。2025年11月12日から2026年1月8日にかけて全国1,788自治体を対象に実施し、934自治体から回答を得た。 前提として、現在保管中の文書量を「把握していない・わからない」と回答した自治体は49.1%にのぼり、そもそも管理対象の特定と文書保有量の可視化が必要な状況であることが浮き彫りとなっている。 文書管理システムの導入率は69.0%と約7割に達する。導入時期は「2020年以降」が30.4%と最多で、近年になって導入した自治体が一定数あることがうかがえる。特に「市(指定都市・中核市・施行時特例市を除く)」と「町・村」では2020年以降の導
記憶力を「素質」として見る感覚「あの人は記憶力が良い」という言い方は広く使われる。試験の成績、人の名前を覚える速さ、会話の細部を正確に再現する能力。こうした差を、私たちは脳に備わった素質として解釈しがちだ。体力や視力と同じように、記憶力には生まれつきの上限があり、人によって異なる、という感覚だ。 この前提は完全に間違っているわけではない。だが、「記憶力の差」として見えているものが本当に何の差なのかを問い直すと、話はもう少し複雑になる。研究が示すのは、「記憶力の差」のかなりの部分が、脳のスペックそのものではなく、別の何かによって生み出されているということだ。 記憶の「容量」で差を説明できるか記憶を「容量」で語るとき、実は二つの異なる仕組みが混同されやすい。今この瞬間に必要な情報を保持し処理する仕組み(ワーキングメモリ)と、知識や経験を一生のうちに蓄積していく仕組み(長期記憶)だ。それぞれの容
最初の症例と概念の誕生2000年代のはじめ、ある女性がカリフォルニア大学アーバイン校の神経生物学者ジェームス・マクゴウ(James McGaugh)に手紙を送った。自分には幼少期以降のほぼすべての日の記憶があると訴える内容だった。マクゴウらはこの女性の調査を始めた。特定の日付を告げ、その日に何があったかを尋ねると、彼女はその日が何曜日だったか、自分が何をしていたか、どんな感情だったかを即座に答えた。新聞の記録や日記などと照合して検証したが、その精度は驚異的なものだったという。 エリザベス・パーカー(Elizabeth Parker)、ラリー・カヒル(Larry Cahill)、マクゴウの3人は5年にわたってこの女性を調査し、2006年に学術誌『Neurocase』に論文「A Case of Unusual Autobiographical Remembering」(「特異な自伝的想起の一症
「覚える」と「つなぐ」は別の機能ハンブルク大学のラース・シュヴァーベ(Lars Schwabe)らの研究グループが2026年5月にScience Advances で発表した研究は、ストレスが記憶に与える影響をこれまでとは異なる角度から捉えている。 従来の研究は、ストレスが「記憶の定着を強める」または「思い出すことを妨げる」という方向に焦点を当ててきた。しかし今回の対象はそのどちらでもない。ストレスが「別々に学んだ記憶をつなぎ合わせ、そこから新しい結論を導く」能力に影響を与えるかどうかを調べている。この能力を、研究者は「記憶統合(memory integration)」と呼ぶ。 記憶をつなぐ力をどう測ったか実験には成人121名が参加した。1日目には、全員が24通りの「AとBの組み合わせ」(動物の写真と顔写真のペアなど)を記憶した。翌日、参加者はストレスを与えるグループとそうでないグループに
忘却の女神は、別の文明にも存在した中華圏の民間信仰には、孟婆(もうば)という忘却の女神が存在する。転生を前にした死者が冥界を通過する際、孟婆から記憶を消す湯を与えられるというこの神話は、明清時代に定型化し、現代においても中華圏の民間信仰に広く浸透している。 忘却を冥界の構造に組み込んだ神話は、ギリシャにも存在する。記憶の女神ムネーモシュネーと忘却の化身レーテーについては以前の記事で取り上げた。冥界の川レーテーの水を飲んだ魂が前世の記憶を失うというあの神話は、人が制御できない現象に名前と形を与えようとした試みの記録だった。同じ試みが、独立した別の文明にも存在したことになる。 孟婆に関する最も詳細な記述は、清代に編まれた、仏教・道教・儒教の三教習合を背景とする民間の勧善書『玉歴宝鈔』(ぎょくれきほうしょう)に見られる。そこに記された来歴によると、孟婆は前漢に生まれ、儒書を読み仏典を暗唱し、過去
減量後の皮膚が、炎症を起こしやすいわけ肥満は乾癬(かんせん)やアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患を悪化させることが知られている。肥満が慢性的な低レベルの炎症状態を全身に引き起こし、コラーゲンの減少による皮膚バリア機能の低下や免疫細胞の変化をもたらすためと考えられてきた。では、減量によって体重が戻れば、そのリスクも解消されるのか。 東北大学大学院医学系研究科の鎌田若奈大学院生(研究当時)、丹野寛大講師、菅野恵美教授らの研究グループは、マウスを使った実験で、減量後も皮膚の炎症リスクが持続することを明らかにした。2026年5月15日、Journal of Immunology Researchに発表された。 研究グループは、マウスを通常食で飼育した群、高脂肪食で肥満を誘発した群、肥満後に通常食へ切り替えて減量させた群の3群に分け、皮膚免疫細胞の状態を比較した。 通常群:18週間通常食肥満群:1
選挙のたびに繰り返される、ネット投票への期待選挙のたびに、SNS上で「なぜネットで投票ができないのか」という声が上がる。スマートフォンで銀行取引ができ、オンラインで契約書に署名できる時代に、投票だけが投票所へ足を運ぶ必要があるのは不便に思える。しかし、インターネット投票の実現を阻んでいるのは、単なる技術的課題ではない。その背後には、秘密投票が19世紀から採用してきた「記録を残さない」という設計思想がある。 秘密投票の誕生と「記録しない」設計現在、世界中のほとんどの民主主義国家で採用されている秘密投票は、実は19世紀半ばまで存在しなかった。アメリカでは、有権者が声を上げて投票するか、政党が配布する色分けされた投票用紙を公開の場で投票箱に入れていた。イギリスでも口頭投票が一般的だった。 この公開投票には、深刻な問題があった。誰がどの候補者に投票したかが一目瞭然であるため、買収と強制が横行したの
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