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その日最後のパーティーは、「婚姻歴理解者」のテーマがついていた。 男女とも、×歴所有者の参加が予想される。 僕は未婚だったけど、相手女性の経歴は気にならない。 「今」のその人を偏見なしでみれる、というのが、なにかとこだわりがちな僕のせめてもの長所かもしれない。 その一方で、ひとつだけ条件があった。 お子様がいないこと。 これを書いている2021年時点では別の観点を持っているが、当時は無理だと思っていた。 正直にいうと、元々が子供が苦手で、どうしても欲しいというわけではない。 他人の子となれば、なおさら自信がなくて、それ以前にピンとこなかった。 加えて、その子の目にも母親の交際相手の男は微妙に映るだろう。 あえて飛び込む必要はない。 タイプの女性でも。 そうと決めてなお、惹かれてしまう女性が現れたら…… それはそのとき考えよう。 最初の個室に入って、受付で渡されたタブレットを開く。 参加女性
「お待たせしました! カップル希望の結果でました! お手元のタブレットをご確認下さい!」 多少の緊張を感じながら、タブレットを更新する。 「今回はカップリングが成立しませんでした。」 ……そうか。 カップリングはなし。 10番さんからもらえなかった…… ほっとしたような気持がなかったといえば嘘になるが、迷いがあったにせよ僕はカップル希望を送ったのだから、彼女からもらえなかったのは失望が大きい。 やはり僕が幼く見えたのだろう。 年齢がどうこう以上に、ひとりの男性として。 自覚があるからなおさら堪えた。 このパーティーでも、マッチングと関係なしに気になった女性に事務局を通して連絡先を伝えることができるが、それをする気も起きなかった。 余計に惨めになりそうで。 相手を取り巻く環境と、それに対応する自分の立ち位置。 10番さんに限らず、どんな相手にも発生する問題。 やっぱり一筋縄ではいかないな……
いつも婚活パーティーの体験談をお読みいただき、ありがとうございます。 たまに婚活パーティーに関してちょっと知りたいことがあるのだけど、とのお言葉をいただきますので、電話でお話できるサービスを始めてみました。 有料ですが、思ってたのと違うな、と感じましたら、すぐに通話を切っていただいて構いません。 パーティー全般のことから恋バナまで、なにかお役に立つことができれば幸いです。 下記リンクから、お気軽にご利用下さればと思います。 よろしくお願い致します。 婚活パーティーのあれこれアドバイスします 91回の個室式婚活パーティーへの参加経験者
「映画好き集まれ」のパーティーが終わって一週間ほど。 カップリングして連絡先も交換した5番さんからは、メッセージのひとつも来なかった。 男性側から送るのが礼儀だとすれば、僕からも送らなかったので、当然の成り行きかもしれない。 それでも…… もし彼女が僕に好意をもってくれていたら、なんらかの連絡があってしかるべきだろう。 東京と横浜。 すでに仲が良くなっているならともかく、そうでなければ、近いようで遠い。 これから交際を始めるにはそれなりの熱量が試される。 僕も彼女も、それを避けた…… 加えて。 カップリング後のお茶の席は、少し気まずさが残る終わり方をした。 5番さんは友達の1番さんと一緒に参加していて、パーティー終了後、1番さんと映画を観に行く予定があったため、少しそわそわした感じだった。 僕は僕で、カップリングの第一希望は1番さんだった。 つまり…… いくつかの偶然が悪いところで重なった
「いいなアピールの結果でました! 続いてカップル希望の送信をお願いします!」 アナウンスが流れて、スマホの画面を更新する。 届いたハートマークは3つ。 その相手を確認すると…… 7番さん、8番さん、それに2番さん。 やっぱり3番さんはないか…… 予想通りとはいえ、少し残念。 2番さんはあまり憶えてない。 そして7番さんと8番さん。 ここが悩みどころだった。 仮にこちらがこの2人にカップル希望を出したとしても、向こうが出してくれるとは限らないし、むしろ一般的に言えばその可能性は高くないので、出してしまえばいいのだ。 出して、カップリングしたら、その流れに乗ってしまえばいい。 それが楽だし自然だとわかっていても、またもやためらいが浮上してくる。 2人のうち、どちらとカップリングするのだろう。 どちらを第一希望にすればいいんだろう。 ああ、なんか疲れるな…… 自分に嫌気が差してきたところで、ある
最初の個室に戻ると、すぐにいいなアピールの送信時間になった。 スマホをいじって、まずは3番さんを選ぶ。 トークタイムでの手ごたえは皆無。 反応はないだろう。 そうと断定できるほどなのに、まっさきに選んでしまう。 いつもはネチネチ悩むのに。 やっぱり外見の好みは強いよね…… 次は直前の7番さん。 形容しがたい感触に、後ろ髪を引かれる思い。 付き合いたいという明確な意思は生まれてないけど、もう一度会って、お茶でもしたいという希望はある。 いいなアピールを送るには十分すぎる理由だ。 3番さんに続き、7番さんも選ぶ。 そして最後に…… 何気ない風を装って横に視線を移す。 パーティー開始前よりは落ち着いているようだが、それでもどこか困惑した様子が見て取れる。 グラスも空になっていて、水分が足りてない感じ。 もう一度注いでこようかな、とも思ったが、今の時点になってからそれはためらわれた。 「暑い中での
「また、会いましょう」 スプーンでアイスクリームをすくいながら、僕はそう言った。 「はい、是非。いつにしますか?」 「そうですね……次の休みの日に」 「それ、いつですか?」 「え~と、そうですね……いつ、お休みですか?」 そう訊くしかなかった。 休みの日が合わないとわかっていながら。 「来週の水曜です」 「水曜ですか……ちなみに、土日ってわけには……」 「来週は土曜も休みなんですけど」 「え、だったらその日で!」 「友達と遊びに行くんです。もう約束しちゃってて」 「そ、そうなんですか。だったら仕方ない……」 様々な感情が湧き起こる中、なんとか平静を保って、でしたら後でメールします、とだけ言ってその場を終えた。 僕より友達を優先したのか…… 勝手とわかっていても、ついそんな思いにとらわれてしまう。 笑顔で挨拶を交わして駅で別れたあと、帰りの電車に揺られながら、物思いに耽る。 僕に残された道は
来週、と約束したものの、再会の日が訪れたのは3週間も後だった。 普通の会社員である僕の休みが土日祝である一方で、販売職に就いている2番さんの休みはむしろ平日。 お互い、会うための都合をつけることができず、予定は後ろ倒しになっていった。 有給を取るべきか。 彼女とのLINEのやりとりの中で、直接その言葉は出なかったけど、ともに意識はしていたはず。 少なくとも彼女は期待していたに違いない。 自分の休みの日に僕が有給を取ることを。 それでも、僕は取らなかった。 心のどこかで、のめり込みすぎるのはよくないと思っていたから。 だめだったときの反動を恐れた。 結果、会えたのは3週間後の日曜の夕方。 どちらかといえば、彼女が僕に合わせた形になった。 少し散歩してから、それなりのお店に行って、おいしい夕食を食べる。 安室ちゃんの話題で盛り上がり、少し突っ込んだ家族の話などもして、つつがなく過ごした。 それ
カフェを出た僕と2番さんは、駅までの短い道を並んで歩いた。 外は寒かったけど、気持ちは温かだった。 ホームが反対方向だったので、駅の構内で立ち止まって別れの挨拶を交わす。 「じゃ、もしよかったら、また近いうちに」 「よろしくお願いします」 「LINEしますね」 ちょこんと頭を下げる彼女に手を振って、ホームへの階段を上がっていく。 混んでいる電車に揺られながら、ふと思う。 彼女と付き合うのだろうか。 事を急ぎすぎると、見失うものも出てくる。 それは自分の本心だったり、相手の気持ちだったり、環境的なものだったり。 お互い、それなりに大人のせいか、わざと控えめな態度の中で、直情的にはならない。 小さな反応を見落とさず、それを手掛かりにして、次の指針とする。 今夜の彼女の様子からすると…… 感触は悪くない、次はありそうだ。 夜遅くなったらLINEを送って、次のデートを提案しよう。 きっといい返事を
無理をしている笑顔に、僕の胸は締め付けられた。 彼女なりに苦しんできたことに気付いて、根掘り葉掘り興味本位で訊いてしまったことを後悔する。 それでも、2番さんの心根というか素顔が見れた気がして、これでよかったのだと思える。 付き合いたい。 そんな気持ちが湧き上がってきたとき、私もう35歳なのに、どうしようもないな、と彼女は顔を傾けた。 「そんなことないです。まだまだ十分に若いですよ。美人さんだし」 「でも私、片親を亡くしてるんですけど、33歳でした。もうその歳を超えてます」 「自分が親になっていてもおかしくないのに、ですか」 「まぁ、一般的にはそうですよね。自分が親になるっていうのは、ちょっとピンとこないですけど」 「そんなの、もっと年上の僕だってピンときませんよ。一般的な尺度は関係ないです。少なくても僕から見て、あなたは十分に魅力的ですから……」 「……ありがとうございます」 その時の彼
「彼氏さんと別れて、パーティーに参加したんでしたっけ。吹っ切るために」 「そうなんです」 「ちなみに職場の方だったんですか?」 「ん、まぁ……」 少し口ごもった感じ。 「上司ですか?」 「わかりますか?」 「年下と付き合うのは想像できないので」 「ですよね。私、精神年齢はきっと低くて」 「……奥さんとかいる人だったとか?」 「……奥さんはいなかったけど、その……」 彼女はいたのだろう。 職場に男性が少ないということは、逆に男性は必然的にモテる環境といえる。 たいしていい男でなくても、同僚女性との争奪戦で火が付いて、なんてこともありそう。 いい職場だな‥‥…! でも、吹っ切るためにパーティーに参加したということは、2番さんはフラれたのだろうか? 「結局、その男性のことはフッたんですか?」 「……最後だけはそうですけど。途中でNGだされたりは……」 「NG、ですか」 “no good” 映画や
「えっと、いいねの方は、もらえなかったのが1人です」 今回のパーティーは当初、男女16対16だったところ、2名追加されて18人同士になった。 18人中、17人からいいなアピールを受けたことになる。 これは多いようで、それほど珍しいことではない。 ちょっと可愛かったら、とりあえずアピールしておこう…… 男性参加者の共通心理。 より重要で真剣度がわかるのはカップル希望だ。 「カップル希望の方はどうでした?」 「そっちは……少し減って15名でした」 「へぇ、それでもすごいですね!」 「そうですか?」 「はい。モテモテです」 そんな、と顔の前で手を振る彼女を見ながら、やっぱり職場の環境なんだろうな、と思った。 レディースの売場にいれば、男性との出会いはどうしても少なくなってしまうのだろう。 今回のパーティーに限らず、保育士さんや看護師さんの参加女性は多い。 そして…… 職場に関連して、気になるとい
そっか、ついこの前まで付き合ってた男がいたんだ。 おそらく、多くの男性はそう思う。 彼氏くらいいたって別に普通なのに、それで反感を受けてしまうのが婚活パーティーだったりする。 長年つきあっていた彼女と別れたので参加しました。よろしくお願いします。 もし僕がこんな紹介文を書いたら、カップリングどころかドン引きされるのが落ちだ。 そのあたりの感覚に乏しい2番さんだけど、そこがまた可愛く思えるから仕方ない。 「今日はありがとうございました。でも僕なんかでよかったのかな」 「え、そんなこと。選んでもらえて嬉しかったですよ?」 「でもきっと、いいねとかカップル希望、いっぱいもらえてたんじゃないですか?」 素直な彼女は照れながらも事実を包み隠すようなことはしない。 「は、はい。いっぱいもらえてビックリしました。私、初参加だったんですけど、やり方とかよくわからなかったから」 「当然だと思いますよ。今日来
ロビーで2番さんと再会した時には、すでに20時近かった。 「どこかで食事でもどうですか?」 2番さんが顔に手を当てて少し迷うような仕草をしたので、遅くなるのがあれでしたらお茶だけでも、と付け加えた。 翌日に仕事を控えた日曜の夜。 なんとなく落ち着かないのは僕も同じだった。 今から何もしないで帰っても、21時を回るのは確実だ。 「30分くらいで切り上げましょう」 僕がそう言うと、2番さんも表情を崩して、はい、行きます、と同意してくれた。 入ったカフェは暗めの照明が落ち着いた雰囲気をつくっていて、さりげなく二人を恋人らしく演出する。 向かい合って座る2番さんの唇は、パーティー会場で見たときより、薄く輝いていた。 「お綺麗ですね」 お世辞よりは本心で、可愛いですね、よりは喜んでもらえるという下心。 「全然、私なんか。ホントは子供っぽいんですよねー」 思い起こされる彼女のプロフィール。 自由欄に書
2番さんを第一希望に。 それだけを選んでカップル希望の提出を済ませた。 グラスを手に取ったけど、中身はすでになく、空のまま元の場所に戻す。 彼女も送信を終えたようだ。 雰囲気でそれがわかったけど、会話をするのはためらわれる。 相手を選んだかどうか互いにわからない状況で、どういうニュアンスで話せばいいのか、非常に気を遣うから。 だったら何も口にしないのが無難。 だから手持ち無沙汰にならないように、意味もなくタブレットの画面を弾いた。 「お待たせしました! カップル希望の結果でました! お手元のタブレットをご確認下さい!」 そのまま指を動かして、一思いに画面をタップする。 「おめでとうございます!」 ピンクに縁どられた文字がパッと視界に映る。 「2番さんとカップリング成立しました!」 ……そうか。 彼女も送ってくれたんだ…… 仲良くなった相席の人からカップル希望をもらえる保証がない中で、自分が
そのアナウンスが聞こえてきて、タブレットの画面を切り替える。 ……あった。 人知れず胸を撫で下ろす。 当然、隣の2番さんも僕からのいいなアピールを受け取っているので、気になって横顔を覗こうとしたら、思わず目が合った。 お互い、照れながら軽く頭を下げる。 「あ、ありがとうございました」 「いえ、私も。ありがとうございました」 事は順調に運んでいる。 いまの感触を当てにすれば、カップリングできるかもしれない。 その一方で、2番さんに少し悪い気もしてきた。 もしかしたら、僕へカップル希望を出すことを、強制してしまっているのではないかと。 たしかにトークタイムが盛り上がったからといって必ずカップリングするわけではないし、なんら保障するものでもない。 しかし、情にもろい人は流されちゃうこともあるだろうし、少なくとも2番さんは、平然と義理人情を断ち切れるタイプには見えなかった。 それが最初の個室の相手
その後、17人の参加女性とトークタイムを共有した。 2番さんを含めて計18名の女性と出会ったことになるが、元々は男女16対16だったので、予定よりも2人多いパーティーになった。 少し失礼な言い方になってしまうが、婚活パーティーは質よりも量、を標榜する自分にとっては嬉しい誤算だ。 しかし…… 2番さんの他に、もっと話してみたいと思える女性は残念ながらいなかった。 だからこそ「質より量」なのだけど…… これでもし2番さんが参加してなかったらと思うと、薄ら寒い気がする。 わくわく&どきどきを感じながら最初の席に戻れるのも、2番さんのおかげ。 あとはなんとか彼女とカップリングして、帰りにお茶でも食事でも行って、安室ちゃんの話題で再び盛り上がりつつも、もっと深い所にも探りを入れて、次のデートを取り付けて…… まだまだ気は抜けない、むしろ本当の勝負はこれからだ、と気を引き締め、笑顔をつくって個室に入る
「どれ買いました? 僕はやっぱりツアーの最初が観たくてナゴヤドームを選びました」 「私は……へへ、2つ買いました」 「マジですか!?」 「札幌と5月の東京ドームです。私も参戦したので」 「チケット当たったんですね~。羨ましいです。僕は全滅で……」 そこで2番さんから誇らしげな鼻息が伝わってきた。 「私、沖縄の25周年ライブにも参戦してるので」 すごい! 沖縄まで行ったんですね! でも会社は? なんて野暮なことは訊かない。 本当に好きなアーティストの記念ライブだったら会社とケンカしたって行くだろう。 「残りの大阪と名古屋と福岡はこれから買っていきます」 だったら、と僕は思わず声を高めた。 「手元に置いておきたいとは思いますけど、もし観るだけでよかったら、名古屋は今度お貸ししますよ?」 「え、いいんですか?」 「ええ、もう何回も観たので」 「じゃあ私も、札幌と東京、貸します」 「あ、なんか僕の
そして驚いたことに、僕なんかは比べ物にならないほど、2番さんは熱烈な安室ちゃんのファンだった。 そもそも男性と女性とではファンとしての在り方や推し方に違いがあるのは当然だが、僕が音楽的、ビジュアル的に好みだった一方で、彼女は自分の生活の一部としている様子だった。 いわゆるアムラーだ。 時に安室ちゃん40歳、2番さんは35歳と、それほど年齢に隔たりがあるわけじゃないけど、少し上な分だけ、自分の見本としやすかったのだろう。 2番さんがちょっと背伸びしてできる女風を志向しているのも、そのあたりの影響が見て取れる。 いくつになっても憧れは変わらないし、消えないものだ。 二人のトークはいよいよ盛り上がってきて、話題は発売されて数か月ほどたった ”Finally” tourの映像作品になった。 通常版にはツアー最終日の東京ドーム公演(6月)と25周年沖縄ライブの2つが収録されているが、多くの人は初回限
受付を済ませた僕は、スタッフに案内されて最初の個室へと向かう。 外がもう暗くなっているせいか、会場内の明かりはいつもより眩しく感じられて、それが少し虚しくて、なんとなく冬らしいと思った。 残念ながら一大イベントであるはずの自分の誕生日はイベントにならずに終わってしまったけど、なんといってもクリスマスが控えている。 いい人に出会いたいな、としんみりしながら2番の個室に入ると、相席の女性はすでに来ていた。 「あ、こんにちは。こんばんは、でしょうか」 僕がそう挨拶すると、2番さんは同じように挨拶してから、営業スマイルぽい笑顔で、よろしくお願いします、と丁寧にお辞儀してくれた。 接客業か受付かな。 メイクは濃いめだけど、元はどちらかといえば童顔で、幼さを隠しきれてない。 さきほどの大人びた営業スマイルからしても、彼女としては「できる女」風を演出したいらしい。 服装も綺麗なお姉さん風だ。 でも実際は
2番さんの職業は、予想した通り接客業だった。 販売員というので、なにを売ってるんですか、と訊くと、服です、と明るい声が返ってくる。 アパレルショップの店員さんだ。 高級ブランドというよりは、ショッピングモールなどにも入っているファストファッション な感じ。 そういったら彼女にとっては不本意かもしれないが、ファストファッション企業は仕事上でも付き合いが合って、僕としては親しみが湧く上に話題にもできる。 そう思って仕事の話を進めると、ファストファッションには違いないけど運よく某有名百貨店に入っているお店に配属されて、それなりのポジションにいるらしい。 プロフィールに記載れている、思いのほか高い年収にも合点がいく。 上司が怖い人で、売上とかのプレッシャーもすごくて毎日緊張して働いてるんです、なんて正直に話してくれるあたり、まだまだ「できる女」の階段を昇っている最中だろう。 彼女も僕の仕事がどうい
このパーティーが開かれたのは2018年の初冬。 安室奈美恵さんが華々しく引退した年だ。 前年2017年9月20日にあと1年での引退を発表して以来、音楽業界にとどまらず文字通り日本全土を席巻するするような安室奈美恵フィーバーが巻き起こった。 2月から始まった最後のライブツアー『namie amuro Final Tour 2018 〜Finally〜』では激しいという言葉では形容しきれないほどの激烈なチケット争奪戦が展開され、ファンだった僕もあらゆる手段を講じて入手を試みたが、全滅した。 ちなみに、当時付き合っていた彼女にもチケットゲットのためにいろいろ協力してもらったが、たいしてファンでもない彼女は白い目をしていて、僕に愛想をつかした一因になった。 その女性との別れが婚活パーティーに参加するきっかけになったのだから、安室奈美恵さんの引退が僕の人生にさざ波を立てたのは確かだろう。 参照:00
カフェに入った僕と5番さんは、窓際の席に座ってコーヒーカップを口元に運ぶ。 よく婚活情報誌なんかには、最初のお茶は短く済ます、長くても1時間、もう少し話したいと思えるところで切り上げるのが妙、なんて書かれている。 その真偽はともかく、概ねは賛成だ。 全部を語ってしまいたくなるところを我慢して、その後のメールやLINEのやりとりで小出しする。 興味を持続させ、関係を長期化させていくことで信頼関係を築く。 むしろ付き合うまでの自然な流れだろう。 なので、5番さんが提案した “30分” という時間も、短さは問題じゃない。 その時間を使ってより深い会話を楽しみ、連絡先の交換もできた。 しかし…… ナチュラル系ゆるふわ、みたいな5番さんはここでも可愛かったが、心のどこかで、1番さんとの映画に負けた、というちょっとした敗北感を感じていた。 本来なら30分でも割いてくれたことに感謝するべきところ、そうは
いや、よかったのはもちろん、僕だってそうだけど…… 「じゃ、じゃあ、とりあえず一階の玄関前で待ってますね」 「わかりました」 場内アナウンスに従って、会場を退出してエレベーターに乗る。 女性が降りてくるまでには少し時間があるので、僕はお手洗いに立ち寄って身だしなみを整えた。 もしかして5番さんは、1番さんと映画に行くことよりも僕とのカップリングを優先してくれたのだろうか。 それとも、どちらかがカップリングしたら映画はなしにするという協定を事前に締結していたのか。 そんなことを考えながら、ビルの玄関で待つこと5分。 エレベーターを降りた5番さんが小走りに駆けてくる。 「お待たせしました」 「いえ、全然」 現在時刻は14時40分。 「よかったらお茶でもしますか? 食事でもいいですけど」 「お茶にします。でも、そんなに時間なくて……」 その言葉に疑惑が蘇る。 「あ、そうなんですね。どのくらい大丈
「ありがとうございました」 カップル希望の送信を終え、グラスを取った拍子に5番さんと目が合ったので、いいなアピールをもらったお礼を言う。 5番さんははにかんだ様子で、ちょこんと頭を下げた。 相席した隣同士でいいなアピールを送る状況というのは、よくあることだが、何度経験してもこそばゆいものだ。 「お待たせしました! カップル希望の結果でました! お手元のタブレットをご確認下さい!」 ついにこの時がきた。 こそばゆさが緊張に上書きされたが、気持ちを落ち着かせるように心の中で唱える。 ダメでもいいじゃないか、どうせ条件はよくないんだ。 横浜まで行ったり来たりなんて口でいうほど簡単じゃない。 たとえこっちが頑張れても、向こうが嫌になる可能性だって…… そっとタブレットを更新すると、画面がパッと煌めいた。 「おめでとうございます! 5番さんとカップリング成立しました!」 ……え!? 嬉しさと残念さと
そうこうしているうちに、いいなアピールの結果がでた。 タブレットを更新すると…… 5個もらっていた。 1番さん、それに5番さんからも来ている。 よし! 嬉しさと安堵に息を吐いたのも束の間、すぐにカップル希望の選択に迫られる。 最もカップルになりたいのは1番さん、次点で5番さん。 でもこの二人は友達参加で、この後すでに映画を控えていて、おまけに横浜の人…… うまくいかないものだな、と天井を見上げたが、他の参加女性の中にカップリングしたいと思える人がいなかったことは幸いだろう。 もしいたら、1番さんと5番さんにアタックするデメリットを考えて、そちらに向かうかもしれない。 そうすると、結局はそこまで好みの女性というわけではないから、お茶だけして終わるのが関の山。 その女性に対しても申し訳ない。 ということは、シンプルにカップリングしたいと思えた1番さんと5番さんにカップル希望を出すのが一番だ。
「どうでしたか?」 いい人はいましたか、という意味だろうけど、いいと思った人は彼女の友達なので、ちょっとずらして答えた。 「なかなか楽しいパーティーでしたよ。好きな映画の話もできたし。どうでした?」 「楽しかったですよ、私も」 照れが混じったようなその言い方に、今度は僕の方が気になってしまった。 彼女の言う「楽しかった」に、いい男と出会えた、という意味が込められているような気がして。 最初の印象通りふわふわしてる5番さんだけど、照れの仕草も可愛くて、なんだかんだいって気になる存在なのだ。 それはよかったですね、と答えたところで、いいなアピールの提出を促すアナウンスが流れたので、僕はまず1番さんと5番さんを選び、それから仲良く話してくれた数名を選択して、送信を完了させた。 「パーティーにはよく来るんですか?」 カップル希望を出すまでの合間の時間を使って、是非とも欲しい情報がある。 「うーん、
すべての参加女性とのトークタイムを終えて、最初の席に戻った。 隣の4番さんと「戻りました」「お疲れさまー」と言葉を交わすが、心ここにあらずといった状態で。 頭の中は当然、8番さんで占められている。 8番さんの後にも3人の女性と話したが、彼女たちをほとんど憶えてないくらいに。 「どうでしたー」 4番さんが気兼ねなく訊いてきたので、「そうですねー、難しいかな?」と軽く笑いながら答える。 「そちらはどうでした?」 「いい男って少ないから」 「性格的にですか?」 「そんなとこです。人のこと言えないけど」 いつもならその朴訥な正直さが好ましく思えて、いいなアピール送ろうかな、でもカップル希望までは、などとウジウジ悩むところだが、今回は事情が違った。 朴訥な正直さでは、清楚+妖艶=ミステリアスの式に遠く太刀打ちできない。 それでも、カップル希望はともかく、4番さんにいいなアピールを送ることに迷いはなか
その後、残り4名とのトークタイムを終えた僕は、最初の個室に戻った。 5番さんに軽く挨拶を済ませると、せわしなくタブレットをいじる。 いや、いじるふりだ。 参加女性のうち、いいなと思ったのは1番さんとお隣の5番さん。 その二人が友達だと知ってしまい、なんとなく気まずい。 その上で両方にカップリング希望を出すのは節操ない感じがして…… たとえば。 先ほど予想したように、二人が誰ともカップリングしないで予定通り映画を観に行き、鑑賞後に食事をしたとする。 まずはその映画の感想を言い合うだろう。 面白かった、面白くなかった、あの展開はいまいち、でもラストはよかった、等々。 そして。 自然の流れでこのパーティーの話題が出てくる。 始まるのは参加男性たちの品評会。 イケメン、オタク、しつこし、あり得ない。 周りの迷惑も顧みずに甲高い笑い声を響かせ、誰からカップル希望をもらったか、というところで興奮が最高
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