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おみそ汁
saebou.hatenablog.com
スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『フェイブルマンズ』を見てきた。監督の半自伝的な作品である。 www.youtube.com 舞台は50年代のアメリカである。ユダヤ系一家の息子である幼いサム・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル、名前はサミーとかサミュエルとか言われているところもある)は、ピアニストである母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)とコンピュータ技術者の父バート(ポール・ダノ)に初めて映画に連れて行ってもらい、夢中になる。サムは映画撮影に夢中になるが、家族旅行を撮影した際、ミッツィと父の部下であるベニー(セス・ローゲン)との不倫を示唆する場面を撮ってしまったらしいことに気付く。バートの仕事の関係でフェイブルマン一家はカリフォルニアに引っ越すが、ベニーと離れた母は情緒不安定になり、サムは反ユダヤ主義的なクラスメイトにいじめられる。両親は離婚し、サムは映画界で働くことになる。 半自
ダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)監督による『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を見た。 www.youtube.com 中国系のエヴリン(ミシェル・ヨー)はアメリカでコインランドリーを営んでいるが、税金の申告が大変で店はヤバい状態、夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)からは離婚を切り出されそうだし、レズビアンの娘ジョイ(ステファニー・スー)とは折り合いが悪く、さらに春節で頑固な父(ジェームズ・ホン)までやって来ているということで、人生がいっぱいいっぱいである。ところがそんなエヴリンが税金の申告に行ったところ、夫のウェイモンドが突然、マルチバースの別のユニバースであるアルファバースからやってきたアルファウェイモンドになってしまう。エヴリンは、どうも自分はアルファバースでは大変な大物らしいということを知る。しかもアルファバースバージョンのジョイことジョブ
トッド・フィールド監督の『TAR/ター』を試写で見てきた。 www.youtube.com リディア・ター(ケイト・ブランシェット)は女性指揮者としてクラシック界ではめったにないほどの大成功をおさめていた。レズビアンのターは妻シャロン(ニーナ・シャロン)とかわいい養女もおり、家庭生活も円満に見えた。しかしながらターがかつて教えていたクリスタという若い女性指揮者が自殺し、ターによるハラスメントが関連しているのではないかという告発が出てくる。 全体としては、音の使い方とか時間のモチーフなどに非常に気を配って作られた作品である。オーケストラの演奏からリディアが日常で悩まされる音まで、サウンドの作りが非常に行き届いている。また、最初にリディアがトークイベントで、指揮者にとってはテンポ、つまり時間のコントロールが大事だ…みたいな話をずっとしていて、これは一体何につながるんだ…と?思ったら、指揮者とし
ポール・バーホーベン監督の新作『ベネデッタ』を見てきた。 www.youtube.com 17世紀、イタリアのペーシャにある女子修道院に入ったベネデッタ(ヴィルジニー・エフィラ)は幼い頃から信心深く、やがてイエスの幻影を見るようになる。ベネデッタは性的虐待から逃げて修道院に入ったバルトロメア(ダフネ・パタキア)を助け、やがて恋仲になる。情熱的に神を信じるベネデッタは評判になり、やがて女子修道院長に任命されるが、同性愛と異端の疑いをかけられることになる。 フェティシズムの対象としての神を描いた映画で、けっこうナンスプロイテーションっぽいところもある。面白いのは、本作におけるベネデッタは良いところもあれば欠点もあり、おそらくある種の狂気に陥っている複雑なキャラクターなのだが、(無神論者である私ですら)その狂信を応援したくなってしまうようなところがこの映画にはあるということだ。ベネデッタは情熱的
パク・チャヌク監督の新作『別れる決心』を見た。 www.youtube.com 仕事の都合で妻と別居状態のチャン・ヘジュン(パク・ヘイル)は、山の上から滑落したと思われる男性の死を捜査することになる。中国から移民してきた若い妻ソン・ソレ(タン・ウェイ)が怪しいが、ヘジュンはだんだんソレに対して捜査対象以上の興味を抱き始めるようになる。事件は自殺だろうということで一端、決着がついたように見えたが… 『めまい』+『妻は告白する』みたいなスリラーで(明らかにスタッフは両作を参考にしている)、極めてちゃんとした魅力的なファム・ファタルが出てくるノワールでもある。いろいろと現代風なアップデートもあり、ほぼ問題なく韓国語で込み入った話もできそうに見えるソレが、一番言いたいことについては中国語を吹き込んで機械翻訳してもらうとか、その翻訳の微妙なニュアンスの差がソレとヘジュンの関係に影響を及ぼすとか、翻訳
シン・スウォン監督『オマージュ』を試写で見た。 www.youtube.com 中年の女性映画監督ジワン(イ・ジョンウン)は、新作が全く当たらず、仕事はスランプ気味で、家庭生活も煮詰まっている。そんなジワンのところに、音声が途中から欠落している映画『女判事』の修復の仕事が来る。『女判事』は60年代のパイオニア的な女性映画監督で3作しか映画を撮らなかったホン・ジェウォンの作品で、最近発見されたフィルムを記念上映用に修復する必要があった。ジワンは『女判事』についての情報を集めるべく、調査を開始する。 このところ『エンドロールのつづき』、『バビロン』、『エンパイア・オブ・ライト』など、過去の映画に関するノスタルジアに満ちた映画がけっこう作られているが、私の個人的な趣味ではこの『オマージュ』がダントツに面白い。監督の半自伝的な要素がある作品だそうで、監督自身が韓国の最初の女性映画監督についてドキュ
松本優作監督『Winny』を試写で見た。言わずと知れたWinny事件の映画化である。 www.youtube.com 2002年、東京大学で働いているIT開発研究者の金子勇(東出昌大)は、自ら作ったファイル共有ソフトWinnyを2ちゃんねるでシェアしたところ、Winnyは爆発的に広まり、著作権侵害ファイルのシェアなどに使われるようになる。違法シェアで逮捕者が出る騒ぎになり、さらには開発者である金子自身が逮捕されてしまう。実際に違法行為を行った者だけではなく、ツール開発をした金子が逮捕されたことに衝撃を受けたサイバー犯罪専門家の弁護士である壇俊光(三浦貴大)は、弁護団に入って金子を守ろうとするが… 全体的にはかなりしっかりした法廷もので、単なるメンツやらなんやらくだらない理由で技術開発を阻害する警察の腐敗や、被疑者の人権を守らない不適切な取り調べなどをきっちり描いた政治的な作品である。Win
デイミアン・シャゼル(「チャゼル」表記が多いが「シャゼル」に近い発音らしい)監督の新作『バビロン』を見てきた。 www.youtube.com 舞台は1920年代末から1930年代初頭、サイレントからトーキーに移り変わるプレコード・ハリウッドの時代である。サイレント期からのスターであるジャック・コンラッド(ブラッド・ピット)、スターを目指す若手女優ネリー・ラロイ(マーゴ・ロビー)、映画界に入りたいと願い、ひょんなことからジャックのアシスタントになってだんだん制作側として頭角を現すマニー・トレス(ディエゴ・カルバ)の3人が主要キャラクターで、他にもいろいろと映画関係者が絡んでくる。長尺でわりといろいろなことが起こるのだが、簡単に言うとこの3人の栄光と衰退の物語である。 全体としては、真面目な言い方で説明すると、映画と映画史に関するポストモダンなメタ映画、不真面目な言い方で説明すると金かけた映
ケニヤ・バリス監督、『ユー・ピープル ~僕らはこんなに違うけど~』をNetflixで見た。 www.netflix.com ユダヤ系でブローカーをやめてポッドキャストで食べていきたいと思っているエズラ(ジョナ・ヒル)と、アフリカ系のムスリム家庭で育ったデザイナーであるアミーラ(ローレン・ロンドン)はひょんなことから恋に落ちる。ところがユダヤ人であるエズラの母シェリー(ジュリア・ルイス=ドレイファス)と、アフリカ系ムスリムであるアミーラの父アクバル(エディ・マーフィ)は全くうまくいかない。エズラとアミーラの結婚は破談になりかけるが… 設定はわりと『招かれざる客』みたいな感じだが、WASPがまったく出てこない…というか、ユダヤ系とアフリカ系ムスリムという双方、マイノリティ家庭のカップルが直面するカルチャーギャップを描いた作品である。「白人と黒人」みたいなおおざっぱな分け方ではなく、白人の中でも
『ミスタームーンライト〜1966 ザ・ビートルズ武道館公演 みんなで見た夢』を見てきた。ビートルズの武道館来日について、関係者や当時のファンなどに取材したドキュメンタリーである。 www.youtube.com 東芝のスタッフからファンクラブの人、財津和夫みたいな影響を受けたアーティストまで、いろいろな人にインタビューしていて人選はけっこういいのだが、音楽ドキュメンタリーとしてはそんなに出来が良くないと思う。全体的にやや掘り下げ不足という感じもするのだが、それ以前に単純にインタビューの編集のやり方があんまり良くない。おそらくたくさん話したのをけっこうカットしているのではと思うのだが、インタビューを受けている人の回想について、聞いていて「ん、それどういう状況?」と具体的に想像しづらいところがいくつかあった。東芝のビートルズ担当者が、なんかリクエスト番組みたいなので電話をとる女子学生に仕込みを
ロバート・エガース監督『ノースマン 導かれし復讐者』を見てきた。『ハムレット』のもともとの伝説を映画化した作品である。脚本にはエガースの他、アイスランドの著名な作家であるショーンが参加している。なお、監督はシェイクスピア研究者のウォルター・エガースの息子である(私も今回、初めて知った)。 www.youtube.com 北欧の小国の王オーヴァンディル(イーサン・ホーク)が異母弟フィヨルニル(クレス・バング)に殺され、王妃グートルン(ニコール・キッドマン)を奪って王位を簒奪する。父と同様、命を狙われた小さな息子アムレート(オスカー・ノヴァク)は復讐を誓って逃亡し、長じてヴァイキングの戦士となる。幻影のような予言者(ビョーク)のお告げにより、復讐の時が来たと感じたアムレート(アレクサンダー・スカルスガルド)は奴隷のふりをし、フィヨルニル夫妻が亡命しているというアイスランドに向かう。アムレートは
サム・メンデス監督の最新作『エンパイア・オブ・ライト』を試写で見てきた。 www.youtube.com 舞台は1980年代初頭のマーゲイト(海辺のリゾート地)である。地元の映画館でマネージャーをしているヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、ボスである既婚者のエリス(コリン・ファース)から極めて身勝手な性関係を要求されていた。そんなヒラリーは新しく映画館に入ってきた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)と親しくなり、やがて恋愛関係になる。ところがヒラリーのメンタルヘルスの問題やイギリスで増加する人種暴動などの影響もあり、2人の関係はなかなかうまく進まない。 全体的に演技は大変素晴らしく、コールマンは相変わらず名演だし、若手のウォードや映写技師役のトビー・ジョーンズ、イヤな奴を楽しそうに演じているファースなども良い。作中で大きな役割を果たしているのはピーター・セラーズ主演の『チャンス』な
『ディヴォーション: マイ・ベスト・ウィングマン』をNetflixで見た。実在するアメリカ軍の黒人パイロットで、非白人としてアメリカ軍史に残る業績をあげたジェシー・ブラウンと、そのウィングマンだった白人のトム・ハドナーをめぐる史実に基づいた作品である。 www.netflix.com 1950年代、トム・ハドナー(グレン・パウエル)と、初めてアメリカ海軍生え抜きの黒人パイロットとなったジェシー・ブラウン(ジョナサン・メジャース)がクオンセット・ポイント空軍基地に赴任してくる。ジェシーは既に家庭があり、仲間とつるむよりも妻と過ごすのを大事にしていたが、キャロル(ニック・ハーグローヴ)やトムとは親しくなる。ところが最初の任務の出張先でキャロルが事故死してしまう。トムと組んだジェシーは朝鮮戦争で戦果をあげるが、ジェシーの乗機が墜落してしまう。トムはコックピットから出られなくなったらしいジェシー救
昨日、アトロクで発表した映画ベスト10です(伊賀大介さんのベストとあわせてこちらとこちらで聴くことができます)。今年は133本の映画を見ました。そのうち27本は配信で、1本は日本未公開(ソフトで鑑賞)です。 1. 『メタモルフォーゼの縁側』…ポジティブなファン活動の楽しさに、世代の違う女性の交流を丁寧に織り込んだ作品。 2. 『私ときどきレッサーパンダ』…こちらもポジティブなファン活動についての作品。赤いレッサーパンダが何を象徴しているのか考えるのも面白い(たぶん月経じゃない)。 3. 『サポート・ザ・ガールズ』…かなり深刻な話なのに、コメディみたいな構造であんまりじめじめしていないのが面白い。 4. 『ミセス・ハリス、パリへ行く』…原作より良かった…というか、子どもの頃に読んで納得できなかったバッドエンドがやっと解決された気分になった。 5. 『ファイアー・アイランド』…『高慢と偏見』を
『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』を見た。 www.youtube.com 第二次世界大戦中、ユダヤ人の青年ジル(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)はたまたまペルシャ語の本を持っていたため、ユダヤ人狩りの際に自分はペルシャ系だというウソをついて死を逃れようとする。たまたま収容所の管理職であるコッホ(ラース・アイディンガー)がペルシャ語を習いたいと思っていたため、ジルは全く知らないペルシャ語をでっちあげてコッホに教えることで生きのびることになる。何度か正体がバレそうになりつつ、ジルは危ないところを切り抜けるが… 強引な展開ながらも細部がリアルな作品だが、実話に基づいているわけではないそうだ。短編小説をもとに、ホロコーストサバイバルに関するいろいろな話からヒントを得て作った映画だということである。途中で「それはないだろ…」と思うようなところはけっこうある。ただ、主人公ジルの決死のサバイバルを
S・S・ラージャマウリ監督の新作『RRR』を見てきた。 www.youtube.com 地方の少数民族であるゴーンド人のコミュニティから幼い少女マッリ(トウィンクル・シャルマ)が無理矢理インド総督夫妻に連れ去られ、コミュニティのリーダーであるコムラム・ビーム(NTR Jr.)はマッリ救出のためデリーに向かう。一方、デリーではインド解放を目指す運動家でありつつ、正体を隠して警察に潜入しているラーマ(ラーム・チャラン)が、総督襲撃を企むゴーンド人の活動家がいるという知らせを受け、調査に乗り出していた。ビームとラーマは互いの正体をよく知らないまま知り合うことになり、親友になるが… ド迫力のアクションにプロムみたいなダンスバトルまで、とにかく休むところもない息もつかせぬ娯楽映画である。コムラム・ビームと、ラーマにあたるアッルーリ・シーターラーマ・ラージュは実在の革命家なのだが、おそらく史実には全然
ジャウム・コレット=セラ監督『ブラックアダム』を試写で見てきた。 www.youtube.com 舞台は中東のどこかにあると思われるカーンダックである。この国は古い歴史があるが、英語を話すおそらくアメリカ系の組織であるインターギャングの支配下にあり、圧政に苦しんでいた。そこで反政府活動を行っていた考古学者のアドリアナ(サラ・シャヒ)は、追い詰められた時に身を守ろうとして5000年間眠っていたテス・アダム(ドウェイン・ジョンソン)を起こしてしまう。突然目を覚まして混乱気味のテス・アダムをつかまえるべく、アマンダ・ウォラー(ヴァイオラ・デイヴィス)の要請でジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカのメンバーが出動するが… いろいろ雑で緩いところはたくさんあるが、気楽に楽しめるアクションコメディである。いきなりテス・アダムが何の説明もなく英語を話し始めるあたりとかツッコミどころは満載で、このへんは
『アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター』を試写で見た。実は私はこれまで一度も『アバター』を見たことがなく、今回初めて見た(2009年9月からイギリス留学をしていたのだが、2009年後半から2010年初めにかけては留学したてでお金がない上、余裕があったら全部芝居につぎ込んでいたので、全く映画館に行く機会がなく、見逃した)。このため、新規追加シーンなどは一切わからない。 www.youtube.com 海兵隊員のジェイク(サム・ワーシントン)は戦闘中に負傷して両足が不随になり、車椅子での生活を送っていた。ジェイクは急遽、急死した双子の兄トミーの変わりとして「アバター」なるプログラムに参加することになる。このプログラムは、惑星パンドラに住む現地人であるナヴィと交流するため、地球の人類がナヴィのアバター(人間の意識を接続させて動かす分身みたいな人工生命体)と同期して現地フィールドワーク
カンタン・デュピュー監督『地下室のヘンな穴』を見てきた。 www.youtube.com 舞台は現代フランスのどこかの郊外である。アラン(アラン・シャバ)とマリー(レア・ドリュッケール)の夫妻は地下室にヘンな穴のある家を買うことにするが、この穴はなぜか家の上階につながっており、入ると時間が12時間進むかわりに肉体が3日若返るというものだった。マリーはこの穴を使うのにハマってしまい、若返ってモデルになると言い出す。一方、アランの上司であるジェラール(ブノワ・マジメル)は年下のガールフレンド、ジャンヌ(アナイス・ドゥムースティエ)と暮らしていたが、最近、日本でペニスを電子制御ペニスに付け替えてもらっていた。ところがこのペニスはけっこう不具合を起こしており… テーマは若さへの執着で、マリーとジェラールが女と男、それぞれ違った形で自分の加齢と成熟に向き合えない人として出てくる。ただ、突然モデルにな
ジョーダン・ピール監督の新作『NOPE/ノープ』を見てきた。 www.youtube.com 主人公であるOJ・ヘイウッド(ダニエル・カルーヤ)は父と一緒に映画やテレビに出る馬を訓練する仕事をしていたが、父が空からの落下物による直撃で死亡して以来、譲り受けた牧場の経営に四苦八苦していた。妹のエメラルド(キキ・パーマー)は明るい性格だがあまり牧場を手伝わず、ハリウッドでもっと華やかな仕事をしたいと願っている。ところが牧場のあたりで異変が続き、2人は電気店の技術職員であるエンジェル(ブランドン・ペレア)に手伝ってもらって監視カメラを設置するものの… (これ以降全てネタバレ)序盤はSFホラー、終盤は動物パニック映画である。たぶん予告から想像するよりもずっと『ジョーズ』とか「モルグ街の殺人」とかに近い映画だと思う…のだが、そういうジャンル映画の枠を使って、黒人のパフォーマーやスタッフが抹消されてき
アレックス・トンプソン監督『セイント・フランシス』を試写で見た。ケリー・オサリヴァンが脚本で、主役のブリジットも演じている。 www.youtube.com 30代半ばのブリジットはだいぶ年下の付き合っているのか付き合っていないのかもよくわからないようなボーイフレンドとの関係で妊娠し、中絶をしてから不正出血みたいな症状があってあんまり具合が良くない。ブリジットはレズビアンのカップルに育てられている小さなフランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)の子守として働き始める。フランシスの両親はラティンクスで第2子を生んだばかりで産後鬱気味のマヤ(チャリン・アルヴァレス)と、これまたストレスがたまり気味のアフリカ系のアニー(リリー・モジェクウ)というマルチレイシャルカップルで、いろいろ問題をかかえていた。 とにかくブリジットがかなりずぼらな女性で、それを非難がましくなく描いているのがよい。ブリジ
『メタモルフォーゼの縁側』を見た。 www.youtube.com 高校生のうらら(芦田愛菜)は本屋でバイトをしていたが、そこで75歳の書道教師である雪(宮本信子)に出会う。雪はひょんなことからBL漫画にハマっており、コメダ優 (古川琴音)の漫画の続きを探していた。BLが好きなうららは雪と親しくなり、ついには自分で漫画を描き始め、コミティア出場を目指すが… 対象が漫画で私みたいに映画とか舞台ではないのだが、いろんなジャンルに共通するファンガールの心境を大変に生き生きと描いた作品だ。いわゆるセレンディピティでBLにハマる雪と、ひとりでBLを楽しんでいて周りにはそれを隠しているうららが作品を軸に友情を築いていく様子を丁寧に描写しており、こういう文化系女子みたいな女の子の心情を描いたものとしては『ゴーストワールド』以来のきめの細かさだと思った。ただ、雪とBL仲間になってからうららが自分でも作品を
ストリームシアターの有料配信でCruiseを見た。ジャック・ホールデン作・出演で、ホールデンがとっかえひっかえいろんな役を演じる一人芝居である。ショアディッチタウンホールでの無観客上演を撮影したものだ。 www.stream.theatre 舞台は現代ロンドンで、性的マイノリティ向け電話相談のボランティアを始めたジャックがマイケルという男性から80年代のソーホーの話を聞くという枠がある。マイケルは地方からロンドンに出てきたゲイの若者で、80年代ソーホーのゲイシーンに馴染み、真剣に愛せる恋人デイヴも見つかって幸せだったが、1984年2月29日(閏年)に自分もデイヴもHIV陽性だということがわかる。4年くらいしか生きられないと言われたデイヴとマイケルは人生を満喫しようとするが、デイヴは2年しか生きられず、『トップガン』が上映中の映画館で倒れて亡くなってしまう。落ち込むマイケルはふとしたことから
湯浅政明監督『犬王』を見てきた。古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』のアニメ映画化である。脚本は野木亜紀子、キャラクター原案を松本大洋、音楽を大友良英がつとめている。 www.youtube.com 南北朝の時代が舞台で、異形の者として生まれたが猿楽の芸を極めると身体の異形の箇所がひとつずつ減っていく犬王(アヴちゃん)と、壇ノ浦の海人の息子で平家が残した三種の神器の剣引き上げにかかわったせいで盲目になり、琵琶法師を目指すことになった友魚(森山未來)の数奇な運命を描いた作品である。犬王は新しい猿楽の芸で京都で大人気になり、友魚も友有と改名して犬王のことを語る琵琶の歌で人気を博す。やがて犬王には将軍・足利義満(柄本佑)から声がかかる。 原作小説のほうはなんだかんだで猿楽とか琵琶とか日本の伝統芸能の話という印象がけっこうあったのだが、映画のほうはグラムロックに寄せていることもあってあまりそうい
『トップガン マーヴェリック』を見てきた。前作『トップガン』(1986)から36年振りの続編ということである。メインキャストのトム・クルーズとヴァル・キルマーは続投だが、トニー・スコットはお亡くなりになっているので監督はジョセフ・コシンスキーがつとめている。ヒット曲であるケニー・ロギンズの「デンジャー・ゾーン」は続投である。 www.youtube.com マーヴェリックことピート(トム・クルーズ)は極めて優秀なパイロットとして30年以上軍アメリカに勤務し、本来なら大出世するかそろそろ退役していてよい年頃だが、現場を離れたがらず、大佐としてマッハ10を達成するプロジェクト用テスト機を操縦する仕事をしていた。マーヴェリックはマッハ10を達成したものの頑張りすぎて機体を破壊してしまい、若き日のライバルで今は提督になっている親友アイスマン(ヴァル・キルマー)のご意向でトップガンの教官をつとめるこ
サム・ライミ監督『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』を見た。 www.youtube.com ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)は、街で怪物に追われていた少女アメリカ(ソーチー・ゴメス)を助けるが、アメリカはマルチバースを移動する能力を持った少女だった。ドクター・ストレンジはアメリカをカマータージに匿い、魔女であるワンダ(エリザベス・オルセン)に相談するが、実はアメリカを狙っていたのはスカーレット・ウィッチことワンダだった。子どもを失い(『ワンダヴィジョン』参照)、他のユニバースで無事に子育てをしているワンダの人生をうらやんだワンダは、マルチバースを操る力を手に入れようとしていたのである。ドクター・ストレンジはウォン(ベネディクト・ウォン)と一緒にワンダに立ち向かおうとするが… 全体としてはサム・ライミ監督らしいホラー映画になっており、とくにいろいろな
マイク・ミルズ監督の新作『カモン カモン』を見た。 www.youtube.com 主人公のジョニー(ホアキン・フェニックス)はラジオの仕事をしており、アメリカ各地の子どもたちに会って未来についての質問をするというプロジェクトを行っている。ジョニーの妹ヴィヴ(ギャビー・ホフマン)は元夫ポール(スクート・マクネイリー)が心の病気になってその世話に行かねばならなくなり、ジョニーは妹の息子ジェシー(ウディ・ノーマン)を預かることになる。ポールの具合が悪く、ジョニーがジェシーの面倒をみる期間が長くなるうち、2人の関係はいろいろ問題も生じつつ深まっていく。 ひとり暮らしの男が子どもの世話をすることになって…みたいな映画はけっこうあるが、この映画はわざとらしい感動を排して、子どもは大人と対等なひとりの人間であるが、それでも子どもなのだ、というけっこう難しい内容をかなり多層的なやり方でちゃんと描こうとし
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』を見てきた。 www.youtube.com 公開初日なのでぼかし気味であらすじを書くが、シリーズ第3作のメインプロットはなんと不正選挙である。魔法界にもドナルド・トランプのような政治家がいる…ということで、グリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)が選挙に詐欺的な手段で介入して魔法使いの国連みたいな組織の長になろうとする。これを阻止すべくニュート(エディ・レッドメイン)やダンブルドア(ジュード・ロウ)たちのチームが戦うというものだ。 魔法ワールドフランチャイズの生みの親であるJ・K・ローリングはトランス差別発言でエディ・レッドメインを含めた映画のメインキャスト陣から批判され、さらにジョニー・デップが妻のアンバー・ハードに対するDV疑惑と泥沼の離婚裁判でグリンデルバルド役を降板、次はエズラ・ミラーが精神不安定になって度重なる治安紊乱で警察沙汰
『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』をオンライン試写で見た。スウェーデンの女性画家で、カンディンスキーやモンドリアン以前に抽象絵画を描いていたが全く知られていないヒルマ・アフ・クリントに関するドキュメンタリー映画である。 www.youtube.com ヒルマ・アフ・クリントは1862年にスウェーデンで上級軍人の家庭で生まれ、当時の女性としてはかなり高度な教育を受け、王立美術学校を出て画家になった。生計のために伝統的なイラストなどを描いていたのだが、一方で神秘主義にのめりこみ、極めて前衛的で抽象的な絵画を描くようになった。こうした作品はヒルマと直接面識がある人たち以外の間ではよく知られておらず、あまり展示もされていなかった(ただし、シュタイナーなどの人脈を介してカンディンスキーなどに通じるところはあったらしい)。生前に展覧会が開かれたことはないと思われていたが、実は192
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