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心はどこまで進化したのか 心の個性のルーツをさぐる (河出新書) 作者:河田雅圭河出書房新社Amazon 進化生態学者河田雅圭*1によるヒトの心の進化を扱った一冊.(適応主義からヒトの行動傾向を説明しようとする)進化心理学本ではなく*2,考古学や行動遺伝学やゲノム解析など多分野で明らかになってきた「ヒトの心の進化」および「心の多様性」の知見をまとめて紹介する本という位置づけになる. 第1章 心とは何だろう? 心とは何かについてちょっと触れた後,「心がどこまで生得的か」という話題を扱う.冒頭から心の個人差に強い関心があることがわかる. これについては「心は空白の石版だ」という立場と「心は石理のある大理石の石版だ(生まれつきの要素と環境や文化による経験の両方が影響する)」という立場がある.一般的には後者が妥当だとされ,生まれつきの要素は遺伝的で人類共通で,違いは経験によって生まれると理解されて
ダーウィンは進化をどう考えたのか (ちくまプリマー新書) 作者:長谷川眞理子筑摩書房Amazon 本書は長谷川眞理子によるダーウィン本.長谷川は2006年に「ダーウィンの足跡を訪ねて」というダーウィン本を出していて,これはダーウィンゆかりの地を訪ねた旅行記にダーウィンの簡単な伝記を合わせたような内容だった.そして,ダーウィンについては語り足りないことがあるということで,20年ぶりに本書が出されたということになる.本書では前書よりダーウィンの人生と進化考察の軌跡を深く扱っている. はじめに ダーウィンの手紙,ノート,著作集が包括的に出版されたことにより「ダーウィン産業」と呼ばれるようなダーウィンについての科学史的研究が勃興し,重箱の隅をつつくようなものも含めて論考が膨大にあることが紹介され,しかしそこにあえてダーウィン本を出すのは,やはりダーウィンは偉大だと思うし,特に「進化」について多くの
進化心理学概説 作者:中西大輔ミネルヴァ書房Amazon 本書は進化心理学者である中西大輔による進化心理学の教科書になる.大学の授業用の講義ノートに加筆修正を加えて書き上げられたもので,1章が1回分(90分)の講義に相当する(全15コマのうち復習・総括分の2コマを除いて13章となっている)形になっている.これまで日本語で出版された進化心理学の入門書,教科書の中では最もボリュームがあり,内容的にも充実している. 第1章 進化心理学とは何か? 第1章は導入章.ここは進化心理学の特徴として,(ほかの心理学分野とは異なり)自然淘汰による進化理論を基盤(メタ理論)として持つことが強調されている.そして他の心理学と共通な特徴として機能主義(特定の心理状態を規定するのはその内部構造ではなく機能であると考える),行動主義(測定可能な対象のみを研究する*1.行動主義をとる場合,ヒトもヒト以外の動物も機械も区
進化と人間行動 第3版 作者:長谷川 寿一,長谷川 眞理子,大槻 久,齋藤 慈子,香田 啓貴東京大学出版会Amazon 「進化と人間行動」の第3版が出版された.「進化と人間行動」は初版が2000年に出版され,進化,行動生態学,進化心理学についての日本語で書かれた最も優れた入門書として読まれ続けてきた本だ.2022年に22年ぶりに改訂第2版が出版され,今回そこから4年で第3版の出版となった.今回は前回に比べてマイナーアップデートとなっているが,研究が進む分野の定評ある本がどんどん改訂されるのは大変喜ばしい. 第2版についてはすでに書評しているので,本書の概要を知るにはまずはそちらを読んでいただきたい.ここではあくまでこの書評の補完として第2版から第3版で改訂された部分を中心に紹介したい shorebird.hatenablog.com 第3版まえがき 第3版の改訂にあたってまえがきが付されて
進化心理学ー進化の視点から心を探る(ワードマップ) 作者:小田亮新曜社Amazon 本書は進化心理学者小田亮による進化心理学の解説書で,新曜社のワードマップシリーズの一冊.ワードマップシリーズは新曜社の紹介によると「真に時代を予兆することば,本質的な変化と持続を徴すことばを選んで,思想と文化,科学と芸術の諸領域における視野の交代,地殻の変動とその行方を描き出そうとするもの」だそうだ.内容的には初心者向け新書と専門書の間を埋めるようなシリーズというイメージだが,本書は「進化心理学」についての学部生向け教科書とサイドリーダーの間的な内容になっている. まえがき 冒頭で「進化心理学」はデネットのいう万能酸*1の侵食によって生まれたものだと述べている.つまり進化心理学は自然淘汰理論が心理学に侵食して生まれたものであるということだ.具体的には「ヒトの心が進化の結果であるならどういうしくみと働きを持っ
利己的な生物がなぜ協力し合えるのか 「進化論」の残された謎に挑む (PHP新書) 作者:長谷川 英祐PHP研究所Amazon 本書は進化生物学者で社会性昆虫,特にアリをリサーチしてきた長谷川英祐による利他性の進化についての一般向け解説本.利他性の進化に関連する様々なトピックを解説し,自らのリサーチを紹介し,独自の理論的仮説も提唱している.最後に包括適応度理論支持者とマルチレベル淘汰理論支持者の論争の暗黒面についての告発的な述懐があって(この論争に関心のある私にとっては)非常に興味深い一冊になる. 第1章 ダーウィンの自然淘汰説とは? 冒頭の導入章.ここではまず,ダーウィンの自然淘汰説についての初心者向けの解説がある.ダーウィンの説明の骨子,発表の経緯*1,誤解されやすいポイント*2が解説されている.最後にダーウィンは利他性の進化(特にアリなどのワーカーの存在)を上手く説明しきれていなかった
利他と血縁 社会生物学入門 作者:辻󠄀 和希岩波書店Amazon 本書は社会性昆虫の研究者で包括適応度理論を用いたリサーチを数多く行ってきた辻和希による利他行動・包括適応度理論・社会性昆虫についての解説書である.辻は本書を,2006年に出版されたシリーズ進化学第6巻「行動・生態の進化」第2章「血縁淘汰・包括適応度と社会性の進化」をブラッシュアップしたものと述べている.この「行動・生態の進化」は日本に行動生態学が根付いた直後に出版されたきわめて充実した本であり,特にこの第2章は素晴らしかった.私としても大いに期待して手に取った一冊になる. はじめに 本書のスコープ(社会性昆虫のワーカーの存在を含めた利他行動の進化についての解説書)が提示され,叙述スタンスについて,確立された考えを表面的にたどることなく,血縁度や包括適応度などの重要概念を一から理解する手助けとなるように努めたとある. また想
When Everyone Knows That Everyone Knows . . .: Common Knowledge and the Mysteries of Money, Power, and Everyday Life (English Edition) 作者:Pinker, StevenScribnerAmazon 本書はスティーヴン・ピンカーの最新刊.テーマは共有知識になる.ここでいう「共有知識(common knowledge)」とは,単に皆が同じことを知っているというだけではなく,皆が同じことを知っていて,さらに皆が「皆が同じことを知っている」ことを知っていて,さらに皆が「皆が『皆が同じことを知っている』ことを知っている」ことを知っていて・・・(以降永遠に続く)という無限再帰言及状態にあるような知識を指す. 最初にこのテーマだと聞いた時には,心の理論関連の本になるのか
アンモナイト学入門:殻の形から読み解く進化と生態 作者:相場 大佑誠文堂新光社Amazon 本書は古生物学者相場大佑によるアンモナイトについての解説書だ.アンモナイトといえば,中生代を代表する生物で,その化石は古生代の三葉虫と並んで教科書にも載る「示準化石」であることでよく知られている.とはいえ,ではアンモナイトがどのような動物かといわれると,頭足類に含まれ,現生のオウムガイによく似ているという程度の知識しかなかった.三葉虫については三葉虫専門の古生物学者リチャード・フォーティによる「三葉虫の謎」があって大変面白かったが,アンモナイトについてはそのような本に触れる機会がこれまでなかった.というわけで手に取ったのが本書になる.表紙は相場自身の手による最新知見を元にしたアンモナイトの復元画でなかなか味がある. 本書はアンモナイトの様々な点について解説されているが,本稿では私にとって興味深かった
進化の原理と基礎: 計算機シミュレーションで理解する進化の物理 作者:市橋 伯一,金井 雄樹東京大学出版会Amazon 本書は(生物進化だけではない)より広い意味の進化過程を数理的に解説する教科書になる.数理過程もコンピュータシミュレーションの利用が大きく取り入れられているのが特徴だ. 著者の市橋伯一,金井雄樹は東大の先進科学研究機構に属しており,本書は東京大学の前期課程のアドバンスト理科「生命進化概論」,および総合科目「進化学」での講義内容をさらに膨らませて書かれた一冊になる.念頭にあるのがより一般的な進化過程*1ということで,通常の進化生物学の教科書とはかなり趣の異なる本に仕上がっている. (なお natural selection の日本語表記について,著者たちは「淘汰」には排除のニュアンスがあるので誤解を招きかねないとして,「自然淘汰」ではなく「自然選択」を使うと説明している.本書
美しく残酷なヒトの本性 遺伝子、言語、自意識の謎に迫る (PHP新書) 作者:長谷川 眞理子PHP研究所Amazon 本書は長谷川眞理子によるヒトの本性についてのエッセイにまとめたもの.もとは月刊誌「Voice」の巻頭言として2021年から2023年にかけて連載されたもので,そこに一部考察を加え,最新知見にアプデートし,構成に手を入れて一冊にしている.長谷川には同じように雑誌に寄稿したエッセイをまとめた「進化的人間考」(「UP」2010~2012年の記事が中心)があり,それを10年後にアップデートしたような内容になっている.*1 第1章 生き物の世界 第1章では生物学とはどういうものか(生物学の構造),各分野の関心と分野間の関連性などが解説される. 生物学は様々な生物現象を取り扱い,細分化されて全体が見えにくくなっている.ここでは全体像の把握のために「生物現象のすべてをおさめた箱」という3
ランドルフ・ネシーの講演が行われるというので,進化精神医学セミナーに参加してきた.場所は京王線上北沢の閑静な住宅街の一角にある東京都医学総合研究所.ネシー教授の進化精神医学の講演を中心に,東京ティーンコホート研究で明らかになった思春期メンタルヘルスのトピックもあわせて議論するという趣旨だった. 冒頭でセミナーの趣旨の説明があったのちに最初に登壇したのは長谷川眞理子 特別講演1 Evolution Is Not Progress: The Ghost of Social Evolutionism 長谷川眞理子 今日はそもそもトークをする予定ではなかったのだが,しかし(本日のようなテーマの講演を聴く)日本の(進化生物学に必ずしもなじみのない)聴衆には,ダーウィンとスペンサーの違いを説明しておかなければならないと思って登壇することにした.多くの日本人はここを誤解している.今日ここに集まったに皆さ
宇宙の広さを知ったサル――心と文化の進化論 みすず書房Amazon 以前私が書評したスティーブ・スチュワート=ウィリアムズの「The Ape that Understood the Universe」が,「宇宙の広さを知ったサル*1」という邦題で邦訳出版される(9/18発売予定). 本書は気鋭の進化心理学者による進化心理学についての一般向け科学啓蒙書であり,素晴らしくよく書けている一冊だ.本書の特徴は,進化心理学がリベラル型の社会科学者たちから誤解に満ちた批判を受けていることをしっかり踏まえて,なぜそのような批判が間違っているのかを丁寧に描いている点だ.そしてそれを異星人視点からヒトを(ユニバーサルにそして進化的に客観的に)捉えてみようという姿勢から語っている. 進化心理学の解説書によくある「導入としての進化の説明」についても手を抜かずに,ナイーブグループ淘汰の誤解,マルチレベル淘汰の可能
科学2025年5月号[雑誌] 岩波書店Amazon 岩波の「科学」はかつて質の高い科学雑誌として認められていたが,少し以前からイデオロギー的で怪しい主張を繰り広げるようになってその評判は地に落ちていた.しかし編集体制が刷新されて最近まともに戻ったという噂を聞くようになった. そして本年5月号で生物の社会行動についての特集が組まれているという話を聞いたので,取り寄せてみたものだ.はたして執筆陣もしっかりしており,怪しい政治色もなく,ほっと胸をなで下ろした. ということで特集についてレビューしておこう. 特集 なぜ社会行動は進化したのか? 霊長類の社会と血縁構造:ヒト社会の起源を探る 井上英治 冒頭で動物が群れをつくるメリット(捕食回避,食物獲得効率向上)とデメリット(1ヶ所での採食量の上限,感染リスクの増大)が整理され,霊長類の場合には比較的長期にわたり固定化されたメンバーを持つ群れを形成す
進化という迷宮 隠れた「調律者」を追え (講談社現代新書) 作者:千葉聡講談社Amazon 本書は千葉聡による進化の必然と偶然をめぐる一冊.副題は「隠れた『調律者』を追え」とされていて,この「調律者」というのは進化に置ける「必然」(つまり自然淘汰による必然的進化,特に海洋島に生じた収斂的な適応放散)を演出する要因というほどの意味になる. 千葉はこれまで進化における自然淘汰と浮動の役割をめぐる壮大な物語をカタツムリをテーマに描く「歌うカタツムリ」を書いており,そこでは必然的要素が強くなるか偶然的要素が強くなるかは様々な条件に依存することが描かれていた.本書はさらに(偶然について浮動以外の要因もふくめ),偶然か必然かを決める様々な条件や条件依存の仕組み(これを千葉は「進化のパーツ」と呼んでいる)を詰めていく物語であり,ある意味「歌うカタツムリ」の補完とも呼べる一冊になる. そして裏側のテーマと
Birds, Sex and Beauty: The Extraordinary Implications of Charles Darwin's Strangest Idea (English Edition) 作者:Ridley, MattHarperAmazon 本書は科学ジャーナリスト,サイエンスライターのマット・リドレーによる性淘汰を扱う一冊.リドレーは自身オックスフォードで進化生物学を学び,コウライキジの配偶システムのリサーチも行っている.1993年に「The Red Queen: Sex and the Evolution of Human Nature(邦題:赤の女王)」で自らのリサーチテーマでもあった性淘汰を扱った科学啓蒙書を出したのが最初の著作になる.そこから続けて「The Origins of Virtue: (邦題:徳の起源)」「Genome(邦題:ゲノムが語る23
数学セミナー2025年3月号 通巻761号【特集】生物の営みと数理---フィッシャーが拓いた地平 日本評論社Amazon 数学セミナーの2025年3月号ではフィッシャーが特集されている.私は数学徒ではないし,もちろん数学セミナーを毎号購読しているわけではないが,フィッシャー特集と聞いて入手してみた. フィッシャーは統計学において傑出した業績を上げているが,進化生物学にとっても重要な学者だ.まずダーウィンの自然淘汰とメンデルの遺伝法則を統合*1した「進化の現代的総合」の数理的基礎を作った3人組み(フィッシャー,ホールデン,ライト)の1人として有名であり,個別の議論としては一般的な頻度依存淘汰理論をはるかに先駆けて性比が1:1になることを頻度依存淘汰の数理モデルを用いて説明したこと,これも性淘汰が進化生物学に一般的に受け入れられるよりはるかに先駆けて,メスの選り好み型性淘汰のランナウェイモデル
僕には鳥の言葉がわかる 作者:鈴木俊貴小学館Amazon 本書はシジュウカラのさえずりや鳴き声の意味を次々に解き明かしてきた進化生物学者鈴木俊貴による自伝的研究物語的な一冊. シジュウカラは広くユーラシアに分布する森林性の鳥だが,日本でバードウォッチングをすると街中でも見られるとても可愛い小鳥*1であり,冬には葉っぱが落ちた林の中でヤマガラ,ヒガラ,コガラ,コゲラなどと混群を作ってさえずり合うので観察しやすくおなじみの鳥だ.春先にオスが梢の先に陣取ってツツピーツツピーと大きく鳴く囀りがナワバリ宣言あるいは求愛というのは有名で知っていたが,それ以外の様々な鳴き声については(タカに対する警戒音はなんとなくわかっていたような気もするが)あまり注目していなかった.そして実は少し前まで研究者たちもあまり理解していなかった.著者は様々な鳴き声に特有の意味があることを世界で初めて解き明かした.シジュウカ
虫・全史 1000京匹の誕生、進化、繁栄、未来 作者:スティーブ・ニコルズ日経ナショナル ジオグラフィックAmazon 本書はスティーブ・ニコルズによる昆虫についての一冊.邦訳のタイトルからは古生代からの昆虫の進化史が延々と語られているような印象だが,進化史だけでなく,進化におけるイノベーションにかかる様々な昆虫の生態も重要なテーマになっている.ニコルズは昆虫について博士号を取ったあとBBCの自然史班を含む野生生物の映像制作に長くかかわってきた映像作家.私的には昆虫の進化史についてはきちんと勉強したことがないなと思って手に取った一冊になる.原題は「Alien Worlds: How insects conquered the Earth and why their fate will determine our future」 イントロダクション 昆虫入門 簡単な節足動物と昆虫類の系統樹と
戦争と交渉の経済学:人はなぜ戦うのか 作者:クリストファー・ブラットマン草思社Amazon 本書は経済学者かつ政治学者であるクリストファー・ブラットマンによるなぜ戦争が生じるのか,どうすれば防げるのかを扱った一冊.基本的に,「戦争は双方ともにコストが大きいので,交渉で戦わないことに双方合意する余地がある場合がほとんどであり,戦争に至るのは例外になる」というゲーム理論的理解を踏まえ,「どのような条件があると戦争になりやすいのか,戦争になりにくくするにはどうすればいいのか」を議論するものになる.原題は「Why We Fight: The Roots of War and the Paths to Peace」. 序章 本書はシカゴの下町の若いギャングのナワバリ争いと北部ウガンダの内戦の逸話から始まる.双方とも当事者たちが争いから逃れられず延々と続く悲惨な状況にある.著者は武力紛争ほど社会の発展
sites.google.com 動物行動学研究会の講演会で長谷川眞理子さんが基調講演されるというので聴講してきた. 人間行動生態学へ 長谷川眞理子 今日は昔話もふくめて,人間についてどう考えるかについて話したい. 動物の行動の研究は1930年代以降にエソロジー(動物行動学)として始まった.ローレンツ,ティコバーゲン,フリッシュが1973年にノーベル賞をとったことで有名だ. この受賞は私が大学3年の時だ.今中身をみると「種の保存」のような現代では否定されている間違った考え方も含まれていた.有名なドーキンスの「利己的な遺伝子」はこれをふくめたグループ淘汰の誤りを明確に指摘した本になる.余談だが,この「種の保存」の誤解は本当にしぶとくて不思議だ.先月スポーツ科学関連の講演会に呼ばれたが,その後の雑談で,ある参加者が「『利己的な遺伝子』は本当にいい本ですね.生物が種の保存のために進化することがよ
なぜ人はアートを楽しむように進化したのか 作者:アンジャン・チャタジー草思社Amazon 本書はアートを進化的に考察した本になる*1.著者のアンジャン・チャタジーは神経科学者で,神経美学(neuroaethetics)の研究者でもある.私はあまりよく知らなかったが,神経美学とは認知神経科学の一分野で,脳の働きと美学的経験の関係(美しいものを見た時に脳のどの領域が活性化するか,どのような神経伝達物質が介在するかなど)を研究するものらしい.本書ではこの至近因的な神経科学の内容だけでなく,究極因的な(進化心理学的な)内容を扱い,対象も美しいものだけでなくコンテンポラリーアート,コンセプチュアルアートなども含むアートと広げている.原題は「The Aethetic Brain: How We Evolved to Desire Beauty and Enjoy Art」. 冒頭のはしがきで,自然科学
現代思想2024年10月臨時増刊号 総特集=ダニエル・C・デネット――1942-2024 意識と進化の哲学 作者:木島泰三,戸田山和久,飯盛元章,吉川浩満,山口尚,高崎将平青土社Amazon ダニエル・デネットは意識,自由意思*1,ダーウィニズムを扱った哲学者であり,新無神論の提唱者の1人としても知られる.本臨時増刊号は彼の今年4月の逝去を受けての追悼記念号という位置づけだと思われる. 私のデネットとの出会いは,「ダーウィンの危険な思想」から始まる.哲学者が著した進化論を巡る論考ということで手を出してみたのだが,実に緻密で徹底的な思考により自然淘汰のアルゴリズムの強力さが描かれており,すぐに大ファンになった(そして私の哲学への偏見を取り除いてくれた恩人でもある).その後意識をめぐる「解明された意識」「スウィート・ドリームズ」,自由意思をめぐる「Freedom Evolves(邦題:自由は進
わたしは哺乳類です: 母乳から知能まで、進化の鍵はなにか 作者:リアム・ドリューインターシフトAmazon 本書は,哺乳類についてその特徴と進化を語った一冊.著者のリアム・ドリューは神経生物学の研究者であった経歴を持つサイエンスライター.この本はかなり評判が良く,2019年に訳本が出て(原書は2017年出版)私も読もうと思っていたのだが,いつまでたっても電子化されず,待ってるうちについ読みそびれていたものだ*1.しかしブルサッテの「哺乳類興隆史」を読んでみて哺乳類についてより学びたいという気分になり,参照文献に本書がたびたび登場しているのを知り,そうそうこれは読もうと思っていた本だったと思い出し,早速取り寄せてみたものだ.原題は「I, Mammal: The Story of What Makes Us Mammals」 はじめに 序章では本書のテーマが示されている.それは哺乳類を哺乳類た
ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ――争い・裏切り・協力・繁栄の謎を追う 作者:アシュリー・ウォードダイヤモンド社Amazon 本書は動物行動学者アシュリー・ウォードによる動物の社会生活に焦点をおいた一般向けの科学書である.ウォードは社会性動物のコミュニケーションの専門家(感覚生態学と呼ばれることもあるようだ).かなり思わせぶりな邦題だが,原題は非常にシンプルな「The Social Lives of Animals」だ. はじめに 冒頭で有名なチスイコウモリの獲得した血を同種個体に分け与える協力行動のエピソードを紹介し,本書のフォーカスが集団を形成する社会的動物の相互作用にあること,そしてその重要性はヒトにおいても同じであることが述べられている. 第1章 氷と嵐の世界に棲む謎の生物 第1章のテーマは集団性.冒頭で登場するのはナンキョクオキアミ.生物の社会性を解説する本と
ダーウィン-「進化論の父」の大いなる遺産 (中公新書 2813) 作者:鈴木 紀之中央公論新社Amazon 本書は進化生物学者鈴木紀之によるダーウィンについての一冊.ダーウィンを語る本は,ダーウィンイヤー(生誕200年,種の起源出版150年)であった2009年辺りにずいぶん出版され,ダーウィンファンの私は喜んで片っ端から読んだものだが,それも一段落し,最近はあまり見かけなくなっていた.そこに久々のダーウィン本の新刊ということになる. 本書の特徴はダーウィンの生涯を,(「種の起源」だけでなく)数多くの著書の内容を中心に振り返っていることで,サンゴ礁の理論,植物関連本の紹介はこれまでの(日本語の)ダーウィン本ではあまり触れられていない部分でもあり,非常に嬉しい一冊になっている. 序章 ダーウィンが変えたもの 序章ということで,進化とは何か,自然淘汰とは何かについての簡単な解説がおかれている.ダ
まじめにエイリアンの姿を想像してみた 作者:アリク・カーシェンバウム,穴水由紀子柏書房Amazon 本書は進化生物学者であり,動物のコミュニケーションの専門家であるアリク・カーシェンバウムによる,星間航行を可能にするような地球外生命がどのようなものであるのかを,(生化学的,解剖学的にではなく)進化的に考えてみようという一冊.姿形よりも行動や社会性に焦点があり,そういう意味では邦題はあまり良いものではない.原題は「The Zoologist’s Guide to the Galaxy: What Animals on Earth Reveal About Aliens--and Ourselves」. 第1章 はじめに 冒頭で2009年のケプラー宇宙望遠鏡の打ち上げ以降,系外惑星が次々と発見され,系外惑星の物理的環境条件がかなりわかってきたことに触れ,そこから地球外生命を想像することの難しさ
WEIRD「現代人」の奇妙な心理 上 経済的繁栄、民主制、個人主義の起源 作者:ジョセフ・ヘンリック,今西康子白揚社AmazonWEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 下:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源 作者:ジョセフ・ヘンリック白揚社Amazon 本書は文化進化研究の第一人者で「文化がヒトを進化させた」の著者でもあるジョセフ・ヘンリックによる一冊.WEIRDという書名から多くの心理学研究のサンプルが西洋諸国の大学生に偏っている問題を扱ったものかと思っていたら,そうではなく,この西洋諸国の大学生の心理傾向が,実際にとても奇妙(weird)であり,それがどのようにしてそうなったのかを説明していく大著だった.ヘンリックの説明はもちろん文化進化を主軸においているが,歴史的経緯が詳しく描かれており,読みごたえのある本に仕上がっている. 日本を含む東アジアの人々にある集団主義的心理と,西
ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?~進化の仕組みを基礎から学ぶ~ (光文社新書) 作者:河田 雅圭光文社Amazon 本書は進化生物学者河田雅圭による進化の一般向けの解説書になる.河田は新進気鋭の学者であった1990年に「はじめての進化論」を書いている.当時は行動生態学が日本に導入された直後であり,新しい学問を世に知らしめようという意欲にあふれ,かつコンパクトにまとまった良い入門書だった.そして東北大学を定年退官して執筆時間がとれるようになり,その後の30年以上の学問の進展を踏まえ,改めて一般向けの進化の解説書を書いたということになる.ダーウィンの議論の今日的当否を問うような印象の題名だが,それは本書の極く一部の内容で,基本的にはいくつかの誤解が生じやすいトピックを扱いつつ進化とは何かを解説する書物になっている. 第1章 進化とは何か 1.1 そもそも進化とはなんだろうか? 第1章第
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