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プライムデーセール
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第1回:准教授/女性/既婚/別居/子なし 金曜日の午後10時30分。博多駅の改札口から出てくるビジネスパーソンや観光客の波の中に、水野亜希子(41歳)の姿があった。 彼女の肩には、ノートPCと数日分の着替え、そして週明けの講義資料が入った重いトートバッグが食い込んでいる。 先ほど羽田からの飛行機を降りたばかりだった。 週末を東京の夫のマンションで過ごし、今まさに福岡へ戻ってきた。亜希子の「本拠地(自宅&勤務先)」は福岡にあり、この週末は東京の夫の元へ「通い」で行き、今、片道約1000キロの移動を終えて戻ってきたのである。 「これが、月に1回。調子が良いときは隔週です。交通費だけで月に10万円以上が個人の給与から消えることがあります。旅費のサポートなんてありません。『完全なプライベート移動』ですから。でも、お金以上に削られるのは体力と精神です」 亜希子は駅構内のベンチに深く腰掛け、深く息を吐
「最後にお正月をご実家で過ごされたのはいつですか?」 都内の私立大学キャンパスに近い、うらぶれた喫茶店の片隅。夕方の店内は、営業回りのサラリーマンやスマートフォンの画面を覗き込む若者たちで適度に騒がしかった。目の前に座る宇佐美香織(43歳)は、運ばれてきたばかりのアイスコーヒーに添えられたストローを、細い指先で慎重に取り出しながら、少し困ったような笑みを浮かべた。 その指先は、長年の実験器具の操作や、強い有機溶媒、もしくは凍結保存容器から立ち上る液体窒素の冷気に晒され続けたためか、どこか固く、荒れているように見えた。爪は短く切り揃えられ、マニキュアの痕跡すらそこにはない。 「いつでしょうか。もう10年以上、まともな帰省はしていないと思います。実家の両親からは、生存確認のLINEがたまに来るくらいで、もう半分あきらめられていますね。『元気で生きてるなら、それでいい』って。大学院を卒業し、一人
日本のアカデミアが抱える「短期成果主義」と「雇い止め」の構造問題は、ライフサイエンス研究者から「誰かと幸せな家庭を築く」という根源的な権利すら奪いつつあります。これは個人のコミュニケーション能力の問題ではなく、システムが生み出した悲劇です。 これまで500人以上の研究者と対話してきた著者だからこそ描ける、彼ら彼女らのあまりに切実で、あまりに合理的な「自己防衛としての不恋愛」。その知られざる実態を、リアルな群像劇を紡ぐオムニバス形式の小説としてお届けします。 *本連載は、実際の取材・証言をベースにしていますが、プライバシー保護およびモデル特定防止の観点から複数の事例を融合させ、固有名詞の変更などの大幅な脚色を加えたフィクションです。実在の人物・団体・名称等は一切関係ありません。
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