これもまた、みそぎ・はらえの亜種であろうか。 新たに獄舎を建てるたび、囚人がひとり、牢から消えた。 江戸時代、将軍家のお膝もとたる関東圏で行われていた風習である。 (Wikipediaより、江戸図屏風に見る初期の江戸) 消えた(・・・)といっても、べつに彼を生き埋めにして火災除けの人柱とし、その上に獄舎を建てたとか、そういう薄暗い類のお話ではない。 むしろその逆、慶事といっていいだろう。 彼は解き放たれたのだ。 罪を赦され、娑婆に還った。よって牢から姿が消えた。ただそれだけの事である。 恩赦と呼んでいいのだろうか。たかが獄舎の新築程度で大袈裟なと思われるやもしれないが、こうでもしないと大工どもが働かないので仕方ない。 江戸時代の牢獄が如何に苛酷な、ほとんど地獄と変らぬ場所であったかは、敢えて今更詳述するに及ぶまい。劣悪を極めた衛生環境、牢名主を筆頭とする畸形的権力構造は、囚人を更生させるの