のぞき魔のことを「出歯亀(でばかめ)」と呼ぶ。平成の昨今、あまり使われなくなったが、手元の広辞苑(第6版)でも「明治末の変態性欲者、植木職の池田亀太郎に由来」との記述がある。出っ歯の亀太郎を短縮したこの言葉は、事件の犯人像がおもしろおかしく伝わって国中に浸透した。はてさて、100年以上も前に起きた超有名な事件とは? ■東京・西大久保 明治41(1908)年3月22日の午後8時半ごろ、東京府豊多摩郡大久保村西大久保(現在の東京都新宿区大久保付近)の風呂屋「森山湯」ののれんが内側からめくられ、着物に羽織姿の、みめ麗しき女性が現れた。小柄で色白、目がぱちくりとしたその姿は、ほかでもない、近所でも美人の新妻と評判の幸田エン子(28)だ。 おしろいで薄化粧を施してはいるが、体からはまだ湯気がシャボンの香りとともに立ち上がり、ほおも赤く火照って、いっそう色香が漂う。夜も遅く、辺りは人の姿も見えない。エ