●内田 樹さんエッセイ 「大人になるための本」 「大人になるための本」というテーマで選んでみました。 「大人になるために読むべき本」というのはどういう本でしょうか。条件はわりと簡単です。それは「どうふるまうのが適切であるかがわからない状況に際会したときに、適切にふるまうことを要請され、それに応えた人のお話」です。 子どもたちは「こういう場合にはどうすればいいか」ということの一覧表をまず暗記させられます。そのリストが長くなるほど、対応できる状況の種類はふえてきますから、「社会的能力」が高まったというふうに評価されはしますけれど、残念ながら、それは「大人になった」とか「成熟した」ということとは種類の違うことです。「大人」と「子ども」の違いは、子どもは「やりかたのわかっていること」しかできないけれど、大人の条件は「どうふるまったらよいのかわからないときにも適切にふるまうことができる」とい