■アンティークに包まれた書店空間 比叡山に向かう一両電車(*1)にゆられて、無人駅の一乗寺で降りる。「夜の店内も雰囲気がありますよ」という言葉に誘われて、夕闇のせまる静かな住宅街を歩くと、暖色系の灯りに目的地と知れた。京都の個性派ブックショップ、恵文社一乗寺店だ。 店内では年代もののテーブルの上に本が飾られ、ランプや鳥かごが幻想的な雰囲気を高める。アンティークな空間は、ヨーロッパの邸宅の書斎といった趣き。夜の訪問を勧めてくださった店長の堀部さんにお話をうかがった。 「この店の歴史は長いですよ。1970年代末からです。オーナーが、他の店が置かないような本を置く店を始めたいと」。京都の街はずれという不利な立地を逆手にとった、チャレンジ精神だった。 近くには京都造形芸術大学があり、京都精華大学や京都大学の学生も多い(*2)。当初、店の運営は学生アルバイトに任され、各人の得意分野だけが充実して一貫