コロナの時代、巣ごもりを強いられている今こそ、大著に挑戦したい。私のお薦めは評伝「江藤淳は甦(よみが)える」(新潮社、2019年小林秀雄賞)だ。戦後日本の在り方を問い続けた論客、江藤淳を追った780ページに及ぶ労作である。著者は江藤担当“最後”の編集者だった平山周吉さん(68)。今は「雑文家」を名乗る。何かと敬遠されがちな江藤の言論を今の世に問いたいとの思いが伝わってくる。 冒頭から江藤の言葉が読む者を引きつける。<母はそこにいるが、同時に無限の彼方(かなた)にいて、私はどうしても手をのばして母の頰に触れることができない。そのとき、いわば私は自分と世界とのあいだの距離を識(し)った。それは言葉によって埋めるほかないものである>。江藤が幼い頃、亡くした母への思いだ。