佐藤直樹 生物・生命に関する教育に対しては、社会的なニーズがますます高まっている。実際、健康、食の安全、環境、人間工学などは、喫緊の社会的課題に直結している。ヒトの身体ばかりでなく、微生物や動植物についての理解は、現代を生きるために不可欠になっているといってもよいだろう。それに対して、東大に入学してくる昨今の理科生には、高校での生物履修者がきわめて少ないようである。さらに、生物に関する学習そのものを不要なものと考えたり、拒絶したりする学生もいる。 上記のような要請をうけて、平成十六年度より理科一類の生命科学が必修化された。それまではそれぞれの教員の裁量に任されていた生命科学の内容を統一するため、東大全体の組織である生命科学ネットワークのイニシアチブのもと、私も含め、生物教員を中心として、黒い表紙の『生命科学』(羊土社)が新たに制作された。これは要領よく要点をまとめたものであるとして、世間の