一九八九年から松竹で制作、フジテレビで放送されてきた中村吉右衛門版『鬼平犯科帳』が、二〇一六年十二月をもって終焉を迎えた。 単純な勧善懲悪に収まらない脚本、江戸の情緒にあふれた映像、役者たちの人間味あふれる芝居……全ての要素が二十八年の長きにわたって高いクオリティのまま作られ続けた時代劇は稀有といってよく、一つの金字塔ともいえる作品であった。 二〇〇〇年代になって時代劇が量的にも質的にも凋落の一途をたどる中にあって、『鬼平』は年に一本のスペシャル放送を続け、そしてその間、決して安易な作りに流れることはなかった。新作を見ては落胆してばかりの時代劇ファンたちにとって、「今年も『鬼平』の新作を観られる」ということは、心の支えであり続けてきた。 それでは、なぜ『鬼平』はそれだけのクオリティを長いこと保つことができたのだろう。 もちろん、それは池波正太郎の原作の力に依るところが大きいのは言うまでもな