真っ当な手段でお金を稼ぐ。 西條奈加『隠居すごろく』は、そのことについての小説だ。これが実に楽しいのである。稼いだお金でご飯が食べられる。そんな当たり前のことが書かれているだけなのに話に引き込まれる。彼らの商売が上手くいきますように、と祈りたくなる。 発端は巣鴨で糸問屋を営む嶋屋の六代目当主・徳兵衛が隠居を決意したことだった。家業を息子に譲って隠居所に引き込んだはいいが、毎日が虚ろで仕方ない。働きづめに働いて、金を稼ぐ以外には何もしてこなかった男だからだ。 そんな徳兵衛の日常に変化が起きる。きっかけを作ったのは遊びに訪れていた孫の千代太だった。泣き虫だが優しい性格の孫は、新しくできた友人・勘七の家が貧しいのが可哀想だとぽろぽろ涙をこぼす。だがそれは、憐れみをかけているようで友人を見下しているのに等しい。人としての正しい道を孫に示すため、徳兵衛は自分にできる唯一のことをもう一度始める。金稼ぎ