音楽は季節を記憶する。 春に聴き込んだ曲は何年経とうとその曲を再生した瞬間、春特有の柔らかな陽だまりの匂いや桜の薄桃色の視界がフラッシュバックするものだが、初解禁された3月から今日まで繰り返し聴き込んだはずの『RUN』には季節が無い。この曲が記憶するのは、うんざりするほど嗅ぎ慣れた部屋の匂いと見慣れたうすぼけた天井だ。 2020年が明けるや否や、世界は疑い深く、でも急速に変化していった。3月から始まるはずだったSexy Zoneのツアーは、初日の数日前に延期の知らせが届き、それを皮切りに全ての日程が延期となった。単調な暮らしの中にコンサートというささやかな明かりを灯し、その日を目標に日々を乗り越えていた私にとって、日を追うごとに悪化する状況の中で届く延期という知らせは、世界で一番聡明で優しくて残酷な約束のように見えた。その判断が正しいということは勿論理解していたし、賢明な対応に感謝こそすれ