仏教は「こころの科学」? 前回に続いて、今回扱ってみたいのは「仏教はこころの科学である」という仏教観です。 仏教はこころの科学である――これは現代の日本で時々見られるフレーズです(ここで言う「こころ」とか「科学」といったことばが、一体何を意味しているかは必ずしも明らかではないのですが)。このフレーズが何を意味しているのかはともかく、およそ「宗教」と呼ばれる文化現象のなかで、仏教ほど人間の心理的な性質に迫ってきたものはないとは言えるかもしれません。 仏典には、渇愛を滅ぼすには具体的にどうすればよいか、心(citta)という現象にどうアプローチすればいいかという問題が語られているし、部派のアビダルマや大乗の唯識思想にも、人間の心理を解明しようとした面はあります。現在でも、仏教と心理学を比較する際には、「仏教は1500年以上前に既に無意識を発見していた!」といったような文脈で唯識思想が持ち出され