しかし、本作はそういう展開にもならない。銭婆は、見た目は湯婆婆にそっくりだが、じつはより理性的な魔女であり、千尋をあたたかく迎え助けてくれるのである。そして、迎えにきたハクと千尋が出会うシーンが、本作のクライマックスとなる。この展開を拍子抜けだと思う観客もいるかもしれない。だが、ここで悪者をやっつけることで問題を解決するという物語の定型が、壊されているということに注目すべきである。もともとの縦構造の世界に巣食う問題をゴリ押しで解決するのでなく、全く別の場所で、しかも予想もしなかった意外な解決法を見出すのである。 ところ変われば考え方も変わる。湯婆婆のように、利益を追い求めて日々忙しく稼ごうとする者もいれば、銭婆のように、慎ましい生活をしながら、ゆったりとした時間を過ごすことこそが豊かさだと考える者もいる。この価値観の違いが、千尋に新たな人生経験と、広い視野を与えるのである。考えてみれば、湯