偉ぶらない語り口が酒井泰弘先生の魅力で、『ケインズは今なぜ必要か』(ケインズ学会編)に収められた講演も、そんなヒューマニティーが読み物として楽しいものにしている。もちろん、中身の方も経済の本質を考える上で、なかなか含蓄が深いものだ。今回は、先週に続き、長老による講演で「リスクの経済学」を堪能することにしよう。 …… 講演の白眉は、「ケインズ革命の本質は、確率統計で計量できるような「単なるリスク」の分析にあるのでは決してありません。それよりむしろ、もっと遥かに広く「蓋然性」や「不確実性」の概念を市場経済のワーキングにドッキングした所にあるのだ、ということです。」の部分だろう。その上で、ケインズの経済学の核心は、「不確実性」にあり、古典派的な経済学は、その問題を軽視ないし無視しているとしている。 リスク論の源流は、先生の指摘するとおり、F・ナイトによる「測定可能なリスク」と「測定不能な不確実性