58年前、静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さんの再審(やり直しの裁判)で、9月26日午後、静岡地方裁判所は無罪を言い渡した。 姉・ひで子さんの献身、死刑判決を書いた元裁判官の告白と謝罪など、袴田さんが確定死刑囚のまま釈放された2014年以降を密着取材。袴田さん自身は、“拘禁反応”とみられる症状が残る中で何を語ってきたのか。『袴田事件 神になるしかなかった男の58年』(青柳雄介著、文春新書)よりプロローグを掲載する。 ◆ ◆ ◆ 拘留生活という大きな犠牲の上で、私は何を得ようとしているか。私は今、人間としてすべての欲望を抑え、そして代わりにそれとは比べものにならない程の大きな満足感を得ようとしているのだ。(中略) さて、私も冤罪ながら死刑囚。全身にしみわたって来る悲しみにたえつつ、生きなければならない。そして死刑執行という未知のものに対するはてしない恐怖が、私の