勝訴の鍵は一冊のノートだった。2016年に熊本県警に逮捕され、家裁で刑事裁判の無罪に当たる不処分となった当時19歳の男性=熊本県=が、違法な取り調べで苦痛を受けたとして県に損害賠償を求めた訴訟。黙秘権などの侵害を認め、県に賠償を命じた9月の福岡高裁判決=確定=が重視したのは、「被疑者ノート」だった。男性が取り調べ状況を克明に記していた。18年前に誕生した容疑者の“盾”が、密室の違法捜査を証明した。 都合が悪くなると黙ってばかり 弁護士さんと相談しているんだろ ノートには取調官の生々しい言動が並んでいた。 男性は16年5月、熊本地震の避難所で女児にわいせつな動画を見せたとして逮捕された。「取り調べに問題がある」。2日後にノートを差し入れた弁護人の松本卓也弁護士は、数々の記述を見て、そう感じた。12日間拘束された男性は、取り調べの様子を書き続けた。 男性のスマートフォンからわいせつ動画の閲覧履