1日に支給される食料の総重量が約8キログラム、エネルギーにして約5600キロカロリーに上る職業がある。厳しいトレーニングに汗を流すアスリートか、はたまた大食いタレントか――。正解は奈良時代に東大寺で経典の書写を行った「写経生(しょう)」だ。東京医療保健大学の教壇に立つ私は2011年に、古代食を再現するゼミを立ち上げた。専門である古代の宗教史は、管理栄養士を目指す学生の興味とはほど遠い。そこで始めた食文化史のゼミは10年を経て、食品学や調理学、栄養学の先生方や国立歴史民俗博物館、奈良文化財研究所の研究者らの協力を得て学際的な研究の場に育った。転機となったのは12年に学生と行った、アユの加工法の研究だった。平城京跡などからは都へ運ばれた品々の荷札木簡が多数出土しており、「鮨(すし)年魚(あゆ)」「煮塩年魚」などアユの加工品もみえる。たとえば「煮塩年魚」は「塩で煮たアユ」の意味だが、実際にどんな