升田幸三実力制第四代名人は、第1期王将戦で木村義雄名人と雌雄を決することになりました(以下称号は省略します)。 七番将棋は升田から見て〇〇●〇〇と進み、第5局で王将位を獲得するとともに、名人を「半香」に指し込んでしまいました。香落ちと平手の2局1組となるハンデです。 香落ち戦の第6局は、昭和27年(1952年)2月18・19日に神奈川県の鶴巻温泉にある旅館「陣屋」で行われることになりました。これは「名人が香車を引かれる」史上初の対局として、大きな注目を集めたのです。 事件は対局前日の2月17日に起こりました。升田が「陣屋」に入らず、近くの「光鶴園」という旅館に籠って動こうとしなかったのです。あわてた関係者が事情を聞くと、升田は陣屋の非礼を主張しました。単独行動だった升田は一人で陣屋の玄関まで行ったものの、出迎えもなく、ベルを押しても誰も出てこず、こんな旅館では対局できん、と怒ったそうです。