1 雇用システムと労働法との関係は単純ではない。事実認識の社会科学としての産業社会学や労働経済学が現実の雇用社会をもとに構築してきた日本型雇用システムの理論は、少なくともある時期までは価値判断に基づく規範の体系としての法解釈学たる労働法学とは縁が薄かった。しかしながら一方で、労働法学が現実の雇用社会で生起する諸事象に対し裁判所が下した判断の集積である判例を踏まえた議論を展開するようになればなるほど、それはそれら諸事象が生起した文脈である雇用システムのロジックに関心を向けざるを得なくなる。かかる労働法学からの雇用システムへの関心を集約したのが、菅野和夫『雇用社会の法』(有斐閣、1996年。2002年新版)であった。同書は日本型雇用社会を長期雇用システムを中心としたものと捉え、身分的包括的雇用関係、組織的集団的雇用関係といった特徴を引き出しつつ、それを表す法的ルールとして解雇権濫用法理が示され