「かなづかいの歴史 ー 日本語を書くということ」今野真二:著(中公新書) 小学校低学年を担当されたことのある先生なら、子供たちに仮名遣いを教える難しさを経験なさっていることでしょう。難しさのポイントはいくつかあると思いますが、ひと言で言えば、発音と表記が単純に一致しないから、ということがあります。 たとえば「球を的へ投げる」と話す場合、「たまおまとえなげる」と発音するのに、文字に書く場合は「お→を」「え→へ」としなければなりません。なぜこのように、一見不合理な表記をしなければならないのでしょうか。 こうした現代仮名遣いでも難しいのに、戦前に用いられていた「歴史的仮名遣い」では、「きょう」は「けふ」、「ちょうちょう」は「てふてふ」などと表記されていました。ほんの百年ほどでこれだけ仮名遣いが異なるのですから、江戸はもちろん、室町鎌倉平安時代はどうだったのでしょうか。 本書は、仮名が成立した十世