温又柔著 『台湾生まれ 日本語育ち』 カフカはチェコに住むユダヤ人であり、ドイツ語作家だった。「ドイツ語」とはいっても、ドイツ語を母語とする人はヨーロッパ各地にいた。 近年日本では「母国語」とはせずに「母語」とする人が多いようにも思うが、これは言語学的見地からではなく、「国」を入れることによる収まりの悪さを感じ取った結果なのかもしれない。「単一民族」による「国民国家」とは虚構のものであるが(そんなものが成立するのは極めて例外的地域のみである)、「母国語」という響きにはその虚構性が潜んでいると、直感的に感じとるようになったということなのだろうか。 「人種」や「民族」を主体的な意志によって選べないように、「母国語」、「母語」も主体的な意志によって選び取ることはできない。そしてもちろん、「純粋」な「人種」や「民族」が虚構であるように、他の影響から完全の逃れた純粋な言語などというものは存在しない。