あのセシリアさんに会いにいく。-1- 5年前のことだ。スペインの片田舎に暮らす一人の老女が瞬く間に世界中で話題になるということが起きた。老女の名前はセシリア・ヒメネスさん。家の近くの教会でキリストを描いた古い絵画に筆をくわえ、「お猿のようにしてしまった」と言われた、あの人だ。僕は、どうしてなのかわからないが、この人、この事件がすごく気になった。たまたま仕事でスペインに行くことがあったので、滞在を延ばして彼女を訪ねてみることにした。以下はその時の旅の模様である。 ある程度裕福な家の人 玄関先で僕を出迎えてくれたセシリアさんは、〈本当は笑みを浮かべたいのだけれど表情筋がそれを許してくれない〉といったふうな、ちょっと複雑な面持ちだった。ボルハの町の旧市街の周囲に巡らされた城壁に同化するようにして立つ彼女の住まいは、ごく最近手を入れたらしく、木製のドアは真新しく、廊下の白壁は塗りたてのように真っ白