2013-05-26 それは俺のアイデアだ 連載小説の締め切りを間近に控えていた人気作家・提は、原稿に熱中するあまり自分の背中にあてられたヒヤリとした感触に、すぐには気付くことが出来なかった。数時間後には今取り掛かっている原稿、明日には別誌に掲載する短編、明後日は文庫書き下ろしの新作掌編の締切だ。 「結構煮詰まってきたな、ちょっとだけ、ちょっとだけ休憩をはさんで……って、なんだお前は!」 「気付くのが遅い! 俺はもう一時間もこうしていたんだぞ!」 提が振り返ると、見慣れた自分の書斎にはひとりの若者が立っていた。突然の侵入者に何か言ってやろうと思ったが、自分の身に起きている事態に気づいて息を呑む。 背中に拳銃をあてられているのだ。 「ずいぶん熱心に仕事をしていたようだな、提先生よ。それは新作か?」 「い、いつのまにこの部屋に入ったんだ。目的は何だ。金か?」 「違うよ。俺が欲しいのはそんなもの