しかし、今回の「阿古屋」の素晴らしさは、寛治師の至芸のみにとどまらないのだ。 三曲は三人の奏者によって演奏される。いまや中堅の実力派・鶴澤清志郎さんがツレ弾きとして芯の寛治師を陰になり日向になり支える。それに加え、寛治師の弟子であり、実の孫でもある鶴澤寛太郎さんが琴、三味線、胡弓を次々と見事に弾きこなす。 阿古屋が奏でる音楽は、三人の奏者によって、より立体的に、重層的に、神秘的に表現される。 その音色の甘美さたるや・・・。 私は客席に座りながら、「もし、これを聴きながら死ねたら、どんなに幸せだろうか」と思わずにはいられなかった。大袈裟だと笑われるかも知れないが、もし天上に流れる音楽というものがあるならば、きっとこのようなもののことを言うのではないかとすら思った。 と、同時に、この芸が、旋律と技法が、今日まで絶えることなく、何人もの芸能者の手を通して、深化しつつ受け継がれてきたことの〈奇跡〉