物の怪とは 平安貴族 とくに女性は人と話をするのも御簾や几帳ごしで、いったん側近に伝えた言葉を、さらに人に伝える「伝言ゲーム」のようなやり方で意志を伝えた。女に限らず、身分が,高くなるほど、直接会話がなくなり、手紙も女房に代筆などで誤解はしょちゅうおこる。顔を見ないやりとりは思わぬ行き違いや誤解から憎しみが生まれる。紫式部の時代に「物の怪」が横行したのも一つには、こういう間接的な貴族のコミュニケーションのあり方が、深く関わっているかもしれない。そして平安貴族の社会は狭い。彼等に仕える女房、家司もほとんど親戚。姪が叔母に仕え、いとこ同士、兄弟同士が政敵に回る狭い世界で、少しの違いにも目を光らせ、少しの変化にも耳をそばだてる。一旦憎まれたり恨まれたりすると、その情念も強い。陰湿なイジメも発生する。平安貴族はいったん事が起きても逃げ場がない。生きる場所がない。武力で抗するすべもない。こんな平安貴