安倍晋三首相がフェイスブック上で外務審議官を務めた田中均氏に批判を加えた一件は、フェイスブックを含むさまざまな手段によって容易になった政治家の「発信」の意味について考える機会を提供したようである。 ≪国益の要請と国際環境で判断≫ 安倍首相の批判を招いた田中氏のインタビュー記事は、毎日新聞上に掲載された「歴史認識と保守主義」という連載特集記事の1回目として登場したものである。筆者は、このインタビュー記事を読む限りは、田中氏が安倍首相に示した「懸念」には総じて同意する。筆者は、安倍首相の対外政策運営に「懸念」があるとすれば、田中氏が示したようなものしかあるまいと納得する。 故に、安倍首相の田中氏批判には、首相の「過剰反応」という趣が濃い。しかも、安倍首相の批判が、外務官僚時代の田中氏の政策判断の是非に踏み込んでいるのをみるとき、その批判には、「江戸の仇(かたき)を長崎で討つ」類いの印象が拭い難