わたしが子どものころ、家の近所に馬小屋があった。わりと田舎だったのである。そこには馬が走り回れる場所もあって、学校から帰ってくると、馬がぽくぽく歩いている光景が見えた。今にしてみれば、ずいぶん牧歌的だった。しかしなにより記憶にあるのは、その馬小屋がとても臭かったことだ。近くを通ると、馬糞や藁の入り混じった匂いがぷんとした。「動物って匂うんだな」と感じたことを覚えている。かんがえてみると、家から学校までの道のりには、「なんだか臭い場所」がけっこうあった。団地の裏とか、地下通路だとか、用水路のとなりなんかを歩くと、よくわからない、へんな匂いがしたものだし、子どものわたしはそれを特におかしいともおもっていなかった。「外にでると、けっこう臭いものだ」とごく自然にとらえていた。 わたしは東京に住んでいますが、今、外を歩いていて「臭い」と感じることはまずなくなった。臭い場所なんてもうないのである。どこ