散歩者はおそらく孤独ではない。都会に群れる人間の虚ろな両眼を覗く限りにおいて。 さて散歩者は野道や竹藪を好むということをご存知だろうか。そしてそれはなぜか、重ねてご存知だろうか。 散歩者は孤独に強い。どんなに暗い農道や潰れた家の並ぶ廃村だろうとお構いなしに歩くのは、それは彼ら散歩者が孤独に強いことの具体例のひとつである。 散歩者にとって散歩道こそが自己である。草花や小動物や砂利が自己の延長であることを彼ら散歩者は残らず認識する。 散歩道を確保するためなら、彼ら散歩者は殺害された二十代前半とおぼしき強姦された女の遺体を見つけても通報などはしない。 散歩者は死体を見つけたら誰も知らない小道を引きずって森の奥に向かう。工事現場から盗んだ大きなスコップで穴を掘り、そこに『彼女』を埋める。 事件の起きること。これを散歩者は嫌う。散歩者は孤独ではない。散歩者は新しい発見をする必要に迫られない。散歩者は