カズオイシグロの大ファンで、著作はほぼ全て読んでいるのだが、その中でもひときわ秀逸だと思うのはやはり「日の名残り」だ。 品格の問題、叶わなかった恋の問題、イギリスの旅情、とにかくいろいろな側面で話す内容の多い作品ではあるが、今回はこの小説で用いられている技巧について話したい。 以前にもこの本でエントリーは書いているけれど、再読した印象の備忘録として残そうと思う。 カズオイシグロの使う小説上の技巧といえば、「信頼できない語り手」のテクニックが欠かせない。「信頼できない語り手」の特徴とは、読んで字の如く時折語り手であるスティーブンスが「事実ではないこと」をほのめかす、というところにある。読み手はそれによって混乱し、ひっかかりを覚える。なぜ、スティーブンスは事実ではないことをほのめかし、我々を混乱させるのか?そしてそれがこの物語を動かす上での大きな推進力になっている。 日の名残り (ハヤカワep
