Introduction 歌舞伎役者のように顔を白く塗り、貴族のようなドレスに身を包んだ老婆が、ひっそりと横浜の街角に立っていた。本名も年齢すらも明かさず、戦後50年間、娼婦として生き方を貫いたひとりの女。かつて絶世の美人娼婦として名を馳せた、その気品ある立ち振る舞いは、いつしか横浜の街の風景の一部ともなっていた。“ハマのメリーさん”人々は彼女をそう読んだ。 街から消えた伝説の女(ヒト) 1995年冬、メリーさんが忽然と姿を消した。自分からは何も語ろうとしなかった彼女を置き去りにして、膨らんでいく噂話。いつの間にかメリーさんは都市伝説のヒロインとなっていった。 そんなメリーさんを温かく見守り続けていた人たちもいた。病に冒され、余命いくばくもないシャンソン歌手・永登元次郎さんもその一人だった。消えてしまったメリーさんとの想い出を語るうちに、元次郎さんは一つの思いを募らせていく。もう一度、メリ